完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
「だから、僕は石田ちゃんがおすすめです。橋場さんのような完璧な人間と合うのは……ああいう楽観的な子だと思います」

「……頭に入れておく」

 ここまで言われると、つい口を滑らせそうになる。
 俺もちょうど、石田のことが気になっているところだと……。
 いや、何を考えているんだ。そんなこと、わざわざ安斎に話す必要はない。
 心の中を悟られないように、わざと気怠そうに返答した。

「いやぁ、でも、話せて嬉しいです。橋場さんとこうして面と向かって話す機会、あまりなかったですから」

「そうだな……俺が、こういう時間をあまり作ってこなかったからな。すまない」

「そんな、謝らないでください。僕たちも、橋場さんのことを気にしてはいるんです。でも、距離の縮め方がわからなくて……」

「俺、そんなふうに思われていたのか……」

 互いに苦笑を交わし、ジョッキに口をつける。
 確かに、こうして誰かとサシで飲むこと自体、これまでほとんどなかった。
 もう少し、こういう時間を持つべきかもしれない……そんな反省が頭に浮かぶ。

 その後もつまみと酒を追加し、仕事の話や安斎の恋愛話で時間は穏やかに流れていった。
 仕事以外の話にも応じる俺を見て、安斎は少し意外そうな顔をしている。
 この時間で、俺に対する印象がだいぶ変わったらしい。

「こんなに話す人だとは思いませんでした。橋場さん、普段あまり笑いませんし」

「仕事中は、面白いことなんてないからな」

「勇気を出して誘って、正解でした。橋場さん、これからもっと雑誌を盛り上げていきましょうね」

「あ、ああ。期待しているぞ」

 時間的に、これが最後の一杯になりそうだ。
 満タンに入ったウーロンハイをほぼ一気飲みのように、安斎が飲み進める。
 俺も負けじと、喉へ流し込んだ。

「あ、ちょっと電話出てもいいですか」

 氷の音をカランと鳴らしながらジョッキを置き、安斎は席を立った。
 そのまま店の外へ出ていく。わざわざ席を外すあたり、相手は察しがつく。
 きっと電話の相手は、宮坂であろう。

 一人残されたテーブルで、俺は静かに気持ちの高まりを感じていた。
 酒のせいもあるが、それ以上に……安斎に触発されている。
 やっぱり、帰ったら石田と話してみよう。
 時間もまだ遅くはない。今から帰れば、ゆっくり話す余裕もあるはずだ……。

「すいません、熱い話をしていた時に」

「いや、構わないよ。それより、電話の相手……宮坂か?」

「あ、はい。橋場さんと飲んでるって言ったら、かなり驚いてました」

「そ、そうか……じゃあ、そろそろ出るぞ。宮坂に心配かけたくないからな」

 いい気分のまま店を出て、並んで駅へ向かう。
 その道中でも、仕事の話は途切れなかった。互いに気分が高揚しているのがわかる。
 改札前で別れる際、安斎は握手を求めてきた。恥ずかしながらも右手を差し出し、固く結ぶ。

 まさか、こんなにも楽しめるとは思っていなかった。
 よし……このままの勢いで、石田としっかり話し合ってみよう。
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