完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
――帰宅してすぐ、家の中が妙に静かなことに気づく。
石田の部屋は真っ暗で、人の気配がない。リビングの灯りはついているのに、物音一つ聞こえなかった。
「ん、何だこの匂いは……」
リビングに足を踏み入れた瞬間、ダイニングテーブルに突っ伏している石田の姿が目に入る。
テーブルの上には、空になった缶ビールが三本ほど。
大きなビニール袋には、総菜の容器が無造作に放り込まれていた。
「……派手にやったな」
キッチンに目をやると、まだスープの残ったカップラーメンが置きっぱなしになっている。その傍らには、ガーリックパウダーと粉チーズが。
部屋に漂う匂いの正体は……これか。
ちゃっかりアレンジまで楽しんでおいて、そのくせ片づける前に力尽きるとは……。
ここにきて、ズボラ行動全開じゃないか。
「石田! おい、起きろ! 石田!」
肩を揺すっても、一向に起きる様子はない。
返ってくるのは、意味をなさない寝言のような声だけで、目を開ける気配すらなかった。
これだから、酒に弱いやつは好きじゃない。
せっかく話し合いをしようと思っていたのに……今日は無理そうだな。
「……ん? 石田、スマホの画面つけっぱなしだぞ」
まただ……何度言っても直らない。
こういう小さな積み重ねで、無駄にバッテリーを消耗するんだと、いつも言っているのに。
ふと、視界に入る画面。
開かれたままのメッセージ。
「……こ、これは」
冒頭に並ぶ一文。相手からの”もう一度、やり直してみたい”という内容。
相手の名前は、確認するまでもなかった。
最近石田の様子がおかしかった理由は……これか。
そのメッセージに、石田は返信していなかった。
「どうすればいいんだよ、俺は……」
石田が、彼のもとへ行ってしまうかもしれない。
その可能性を前に、胸の奥が空っぽになるような感覚に襲われる。
いや……これは本来、喜ばしいことだ。
この居候生活を始めた目的は、人として、そして女として成長し……その彼を振り向かせるというものだった。
それが叶ったんだから、背中を押してあげないといけない。
わかっている。わかってはいるけど……達成感なんてものは一ミリも感じられない。
石田にとって、本当の幸せは……何なのか。
俺のような神経質な人間よりも、ズボラさを包み込むようなおおらかな人間の方がいいのではないか。
やり直してみたいと相手から言われているということは、石田のそういう部分も含めて受け入れる覚悟ができた、ということだろう。
だったら、俺の出る幕はないんじゃないか……。
「……橋場さん、行かないで……」
寝ぼけた石田が、俺の袖をきゅっと掴む。
力なんてほとんどないくせに、その仕草だけはやけに真っ直ぐだった。
無防備に緩んだその表情が、不意打ちみたいに胸をかき乱す。
「俺はどこにも行かない。俺は、な……」
離れようとしているのは石田じゃないか……。
いや、そう思わせたのは俺のせいなのかもしれない。
心に渦巻く感情から目を逸らすようにその場から離れ、熱いシャワーを浴びに向かった。
石田の部屋は真っ暗で、人の気配がない。リビングの灯りはついているのに、物音一つ聞こえなかった。
「ん、何だこの匂いは……」
リビングに足を踏み入れた瞬間、ダイニングテーブルに突っ伏している石田の姿が目に入る。
テーブルの上には、空になった缶ビールが三本ほど。
大きなビニール袋には、総菜の容器が無造作に放り込まれていた。
「……派手にやったな」
キッチンに目をやると、まだスープの残ったカップラーメンが置きっぱなしになっている。その傍らには、ガーリックパウダーと粉チーズが。
部屋に漂う匂いの正体は……これか。
ちゃっかりアレンジまで楽しんでおいて、そのくせ片づける前に力尽きるとは……。
ここにきて、ズボラ行動全開じゃないか。
「石田! おい、起きろ! 石田!」
肩を揺すっても、一向に起きる様子はない。
返ってくるのは、意味をなさない寝言のような声だけで、目を開ける気配すらなかった。
これだから、酒に弱いやつは好きじゃない。
せっかく話し合いをしようと思っていたのに……今日は無理そうだな。
「……ん? 石田、スマホの画面つけっぱなしだぞ」
まただ……何度言っても直らない。
こういう小さな積み重ねで、無駄にバッテリーを消耗するんだと、いつも言っているのに。
ふと、視界に入る画面。
開かれたままのメッセージ。
「……こ、これは」
冒頭に並ぶ一文。相手からの”もう一度、やり直してみたい”という内容。
相手の名前は、確認するまでもなかった。
最近石田の様子がおかしかった理由は……これか。
そのメッセージに、石田は返信していなかった。
「どうすればいいんだよ、俺は……」
石田が、彼のもとへ行ってしまうかもしれない。
その可能性を前に、胸の奥が空っぽになるような感覚に襲われる。
いや……これは本来、喜ばしいことだ。
この居候生活を始めた目的は、人として、そして女として成長し……その彼を振り向かせるというものだった。
それが叶ったんだから、背中を押してあげないといけない。
わかっている。わかってはいるけど……達成感なんてものは一ミリも感じられない。
石田にとって、本当の幸せは……何なのか。
俺のような神経質な人間よりも、ズボラさを包み込むようなおおらかな人間の方がいいのではないか。
やり直してみたいと相手から言われているということは、石田のそういう部分も含めて受け入れる覚悟ができた、ということだろう。
だったら、俺の出る幕はないんじゃないか……。
「……橋場さん、行かないで……」
寝ぼけた石田が、俺の袖をきゅっと掴む。
力なんてほとんどないくせに、その仕草だけはやけに真っ直ぐだった。
無防備に緩んだその表情が、不意打ちみたいに胸をかき乱す。
「俺はどこにも行かない。俺は、な……」
離れようとしているのは石田じゃないか……。
いや、そう思わせたのは俺のせいなのかもしれない。
心に渦巻く感情から目を逸らすようにその場から離れ、熱いシャワーを浴びに向かった。