完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
「石田、昨日は好き勝手にやったみたいだな」

 結局、眠れたのは外が薄明るくなり始めた頃だった。
 それから浅い眠りが続いて……三、四時間ほど経ってから目が覚めた。
 案の定、顔全体が浮腫んで恥ずかしい有様だ。

 重たい体を引きずるようにしてリビングへ向かうと、遅めの朝食を準備していた橋場さんに、早速声をかけられた。

「す、すいません……調子に乗りました……」

 目を合わせないように、俯きながら答える。
 橋場さんは「まったく」と呆れたように息を吐き、魚焼きグリルの様子を確認していた。

「まあ、いい。座れ」

 テーブルの上には、ご飯と味噌汁。それに、焼き鮭とだし巻き卵。
 今日は、橋場さんと暮らすようになってから大好物になった沢庵まで添えられていた。

「胃は? もたれてないか?」

「あ……はい。ご心配をおかけしました」

「それならいい。それじゃあいただこうか」

 手を合わせて、いただきますと声を合わせる。
 この時間にも、すっかり慣れたものだ。
 豆腐とネギの味噌汁が、弱った胃にじんわりと染み渡り……焼き鮭のほどよい塩気は、ご飯との相性が抜群だった。

「今日は、どこかに行くのか?」

 そう尋ねてくる橋場さんの声は、どこか硬かった。心なしか、少し震えているようにも聞こえる。
 私は「夕方にちょっと……」とだけ答えた。

「どこに行くんだ?」

 橋場さんが私の予定を、ここまで細かく聞いてくるなんて珍しい。
 即答するのに迷った私は、「まあ……ちょっと」と曖昧に濁してから、味噌汁を啜った。
 橋場さんは片方の眉を吊り上げ、訝るように迫ってくる。

「怪しいじゃないか。行き先を言わないなんて」

 その追及が鬱陶しく感じてきて、私は伏し目がちに苦笑いを浮かべた。
 適当に受け流そうとしているのが伝わったのか、橋場さんの声色が少しずつ険しくなっていく。

「俺に言えないことがあるんだな?」

「え……いや……」

 ここまで食い下がる橋場さんを見るのは、初めてだった。
 いつもの大人の余裕なんて消えていて、どこか必死にさえ見える。

「大体な、昨日のお前の後始末をしたのは誰だと思ってるんだ? そんな俺を軽く扱うとは、いい度胸だな」

「別に……軽く見てるわけじゃありません。ただ、私にだっていろいろ予定がありますし」

「予定があるのは構わない。だが、共有くらいしてもいいだろうって話だ」

「全部を全部、共有する必要はないと思います。橋場さんは私の親じゃないので」

「親ではない。ただ、お前を住まわせている……上司だ」

 その言葉を聞いた瞬間、頭に血が上るのを感じた。
 橋場さんとここまでの言い争いをしたことなんて、一度もない。
 いや……今までは橋場さんに言い返すなんて、できっこなかった。

 それでも今、口論になっているのは……きっと、橋場さんへのわだかまりが大きくなりすぎているからだ。
 橋場さんは私のことを、女として見てくれない……その苛立ちが、反抗的な態度に出てしまっている。
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