完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】

第九話 じれったい距離

「今回の会議でね……正式にランチ班は石田さん一人に任せるって決まったのよ」

 沖浦さんが目尻を柔らかく下げ、心底嬉しそうな表情で声をかけてきた。
 廊下でばったり顔を合わせ、その流れのまま肩にそっと触れながら告げられる。

「え……」

 あまりに唐突な話で、すぐには言葉が出てこなかった。
 沖浦さんは満面の笑みだけれど……正直なところ、そこまで喜べる話ではない。

「石田さんの成長がね、このチームにとって一番の戦力アップだったの。本当に嬉しいわ」

「……あ、ありがとうございます」

 認めてもらえたこと自体は、もちろん嬉しい。
 足手まといだった私が、ようやく一人前になれたということなのだから。

 でも……一人前として扱われるのが、怖い自分もいる。
 だって、私が完全に独り立ちするということは……本格的に橋場さんのもとを離れるということだから。
 もしそうなったら、居候生活はどうなるんだろう……。
 結局あれから、橋場さんとの距離感はほとんど変わっていない。むしろ以前より、どこかぎこちなくなってしまった気さえする。
 変に意識されているのか、それとも別の理由なのかはわからないけど……私からしたらじれったい距離感に変わってしまった。

「あら? 石田さん、あんまり嬉しそうじゃないわね?」

「……え、あ、いえ……嬉しいです!」

「ふふ、不安もあるわよね。でも大丈夫。私も橋場君もいるんだから、安心しなさい」

「……は、はい」

 確かに、橋場さんがいなくなるわけじゃない。
 同じ班ではなくなるだけで、チームは同じだし、上司と部下という関係も変わらないだろう。
 でも、会社から一人前になったと認められたということは、私の居候生活にも何かしら変化が必要になるということでもある。
 これから待ち受けているであろう、その変化が……私からしたら不安で仕方なかった。

「石田さん、今日お祝いしましょ」

「……え? お祝いですか?」

「そうそう。宮坂さんも誘って、女子会しない?」

 同じチームの女子メンバーで女子会だなんて、断る理由がない。
 私はすぐに頷き、トイレに駆け込み橋場さんへメッセージを送る。
 すると二分もしないうちに、「了解」と短い返信が返ってきた。

 デスクへ戻ると、真剣な表情でキーボードをカタカタと打ち込んでいる橋場さんと、一瞬目が合った。
 橋場さんは作業の手を止めると、スマホを指差して「見ろ」の合図を送ってくる。
 何か届いたのかと思い、慌ててスマホを確認すると……橋場さんから「独り立ち、おめでとう」と追加のメッセージが届いていた。

 その一文を見た瞬間、どうしたって頬が緩んでしまった……。
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