完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
 ――今日の女子会は、新宿にある人気の旨辛鍋の店で開かれることになった。

「石田っち、独り立ちおめでとう!」

 宮坂さんが、ジャスミン茶割りの入った薄口グラスを私のジョッキへ軽くぶつけてくる。
 続けて沖浦さんも、ビールの入ったジョッキをにこやかに差し出した。

「ありがとうございます!」

 格子戸で品よく仕切られた半個室に、食欲を刺激する香辛料の香りがふわりと漂っている。
 鍋奉行を買って出た沖浦さんが手際よく具材をよそってくれて、私と宮坂さんは恐縮しながら器を受け取った。

「ほらほら。どんどん食べて、どんどん飲んでね」

 沖浦さんの笑顔を見ていると、不思議と安心する。
 味噌ベースの旨辛スープの温かさと、沖浦さんの優しさが胸にじんわり染みて、もうそれだけで満たされそうだった。
 隣の宮坂さんは熱々の豆腐に苦戦しているらしく、口の中の熱さに身悶えしながら咀嚼している。

「やっぱり人気店なだけあるわね。特別変わった食材を使ってるわけじゃないのに、出汁の旨味がしっかり際立ってるわ」

「やめましょうよ沖浦さん。仕事中みたいですよ。ねぇ、石田っち?」

「え? あ、そ、そうですね」

「ごめんなさい。つい、職業病で」

 そんな沖浦さんの人柄に、私たちはいつも助けられている。
 今日もまた、自然と場を明るくして、笑顔の絶えない空気を作ってくれていた。
 私たちのチームが安定して結果を出せているのは、きっと沖浦さんの絶妙なバランス感覚があるからなんだと思う。

「……そういえば沖浦さん。今日はお子さん大丈夫なんですか?」

 宮坂さんにそう聞かれ、沖浦さんは一度箸を置いた。
 沖浦さんも熱い具材に小さく息を漏らしながら、どうにか咀嚼している。
 我慢できない様子の沖浦さんは、ビールで流し込むように飲み込み、すぐに質問に答えた。

「うん。今日は実家に預けてるの。だから、せっかくならいい機会だなって思って、二人を誘ったのよ」

「そうなんですね! 良かったね、石田っち。こうしてお祝いしてもらえて」

「はい……本当に、恵まれた環境だなって思います」

 沖浦さんは目尻を柔らかく下げながら笑い、そのまま箸を動かした。
 私も宮坂さんもそれに合わせるように、どんどん食べ進めていく。
 取り分けてくれた具材がなくなると、沖浦さんはすぐに新しくよそってくれた。
 お玉を動かしながら、沖浦さんが「それでさ」と自然に話題を切り替える。

「宮坂さんは安斎君とどう? 仲良くやってる?」

「あ、はい。特に喧嘩もなく、毎日変わらずって感じです」

 宮坂さんと安斎さんの話をきっかけに、そこからみんなの恋バナが広がった。
 沖浦さんがバツイチになった経緯を笑い交じりに話したり、宮坂さんのこれまでの恋愛遍歴が飛び出したり……気づくと、食べる手が止まるほど会話に夢中になっていた。
< 61 / 79 >

この作品をシェア

pagetop