完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
「石田さんは? 彼氏いないの?」

 沖浦さん、宮坂さんと順番に話が回り、いよいよ次は私の番になった。
 聞き役に徹していた私へ気を遣うように、沖浦さんが自然な流れで話を振ってくれる。

「それが、いないんですよ」

 何の面白みもない返答だと思いながらも、私は素直にそう答えた。
 すると宮坂さんが、何かを思い出したように「あっ」と声を上げる。

「そういえば石田っち。安斎君がね、橋場さんには石田っちみたいな子が合うって、よく言ってるのよ」

「え、安斎さんが?」

「そうそう。あの人、観察眼鋭いからさ。二人のこと、結構見てるんだよね」

 私は苦笑いを浮かべるので精一杯だった。
 安斎さんからの視線なんて、気にしたことは一度もない。
 もしいろいろ勘づかれていたら……ちょっと厄介かもしれない。

「そうなんですか? いやいや、何もないですよ……」

 平静を装いながら話を流そうとした、その時だった。
 沖浦さんが静かにジョッキを置き、さっきよりもワントーン低い声で口を開く。

「橋場君ってね……結構、闇を抱えてるのよ」

 私も宮坂さんも、鍋へ視線を落としたまま話し始めた沖浦さんに、一気に意識を奪われた。
 その空気感だけで、胸の鼓動が騒がしくなる。
 橋場さんの闇って……一体何なのか。

 私が聞き返すより先に、沖浦さんはゆっくりと語り始めた。

「前にね、橋場君の妹さんと仕事をする機会があって……その時に、いろいろ聞いたのよ」

 え……沖浦さんが、エマリさんと?
 宮坂さんもエマリさんのことは知っていたみたいで、「料理系インフルエンサーの方ですよね」と自然に相槌を打った。
 私は小さく頷くだけだった。

「橋場君ね、かなり大変な人生を送ってきたみたいなの。ご両親が、どうにもならないタイプの人たちだったみたいで……」

 ――そこから先、私はほとんど食べ物にも飲み物にも手をつけられなかった。
 ただ黙って、沖浦さんの話に耳を傾ける。

 橋場さんとエマリさんの両親は、自分たちのことしか考えていない毒親だったこと。
 橋場さんは学生時代、両親の代わりに家事を一手に引き受け、さらにはエマリさんの親代わりのような存在にまでなっていたこと。
 そうして生きてきた結果、橋場さんは完璧主義な性格になってしまい……自分にも他人にも厳しく接する人間になったこと……。

 沖浦さんの口から語られる内容に、私は思わず顔をしかめてしまう。

 今の橋場さんが形成されたのは……全部家庭環境のせい。
 前に、私と一緒で家庭環境に難があったということは教えてもらったけど……。
 私がどれだけ聞き出そうとしても、橋場さんが自分の過去をなかなか語ろうとしなかったのは……そんな壮絶な経験を抱えていたからなんだ。
 だから橋場さんは、私の過去を肯定してくれて……救いの手を差し伸べてくれた……。
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