完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
「そのせいで橋場君ね、付き合う相手にも完璧さを求めちゃうみたいで……なかなか恋愛が上手くいかなかったんだって」

 沖浦さんが心配そうにそう口にすると、すかさず宮坂さんが「確かに、あれだけ完璧だと相手もしんどくなっちゃうかもね」と苦笑交じりに頷いた。
 橋場さんと付き合った人たちはみんな……橋場さんの潔癖さや細かさについていけなくなって、離れていってしまう……。
 一緒に暮らしている私にも、その意味が理解できる気がした。
 でも……それが橋場さんなんだ。
 私はありのままの橋場さんを、好きでいられる自信がある。

「だから橋場君、人を好きになること自体に抵抗があるみたいなのよ」

 沖浦さん……そんなことまで、エマリさんから聞いていたんだ。
 橋場さんが、人を好きになることに抵抗を抱えているなんて……。

「え……じゃあ、それって……」

 ここ最近の橋場さんの言動が、頭の中で次々と思い返される。
 私と向き合ってみると宣言してくれた日から、橋場さんはどこかぎこちなくなった。
 以前より言葉数も減ったし、私を前にすると、何かを堪えるような表情を見せることも増えた。

 もしかして橋場さん……無理をしているんじゃ……。

「ん? 石田っち、どうしたの?」

「え? あ、いや……ちょっと考え事してました」

 いけないいけない。今、うっかり橋場さんとのことを口にしてしまいそうになった。
 いくら沖浦さんや宮坂さんが相手でも、この歪で曖昧な関係を簡単に打ち明けるわけにはいかない。

「それが、橋場君が抱える闇よ。結構苦労してるのよ、あの子も」

 そう言って橋場さんの話を締めくくると、沖浦さんは追加のハイボールを注文した。
 その後は自然と仕事の話題へ移り、沖浦さんと宮坂さんは次月号の特集について楽しそうに語り合い始める。
 私も笑顔を作って相槌を打っていたけれど、頭の中はずっと橋場さんのことでいっぱいだった。

「さ、そろそろお開きにしましょうか」

 〆の雑炊まで綺麗に食べ終えた頃、沖浦さんが思い出したように時計を見る。
 宮坂さんも「あんまり遅くなるとお肌に悪いですもんね」と言って、慌てて荷物をまとめ始めた。

「今日はいろんな話をしたけど、改めて……石田さん、独り立ちおめでとう。橋場君は編集リーダーに専念することになるけど、きっとこれからも支えてくれるわ。だから、伸び伸びやりなさい」

「……はい!」

 ここまで気にかけてくれると、自然と頑張ろうって気持ちになれた。
 沖浦さん、宮坂さんと別れ、一人で帰り道を歩く。
 つい今まで会社のために頑張ろうという想いが強かったのに……一人になった途端、橋場さんのことでまた胸が苦しくなってきた。
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