完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
「あ……光市から……」

 スマホの画面に、光市の名前が表示されていた。
 不在着信とメッセージが一件。
 内容を開く前から、何となく予想はついていた。

『そろそろ、答えが聞きたい』

 やっぱり……光市も気が気でないんだ……。
 保留にしているとはいえ、私の気持ちはもう、かなり傾いてしまっている。
 だって今の私は、橋場さんとの毎日に希望を見出してしまっているから。

「でも橋場さん……私のせいで苦しんでるんだよね……」

 橋場さんは、付き合った相手に完璧さを求めてしまう。そして、その息苦しさに耐えきれなくなった人たちは、みんな離れていった。
 その積み重ねが、橋場さんの中で恋愛を恐怖に変えてしまった。
 私と向き合うということは……私の気持ちを受け止めるだけじゃない。
 橋場さん自身が、そのトラウマとも向き合うということなんだ……。

 今日、沖浦さんから橋場さんの過去や苦悩を聞いて……橋場さんを好きになってしまうのは、橋場さんを苦しめる行為なのかもしれないと思うようになった。

「だからって……光市とやり直すのも違う……」

 少し前までなら、橋場さんへの想いを諦めようとしていたからこそ、光市の存在は大きかった。
 私のことを想ってくれる人がいるなら……なんて前向きに捉えられていたけど、今はそれが軽い気持ちだったってことがよくわかる。

 私が本当に好きなのは……橋場さん。
 でも橋場さんは……人を好きになることを恐れている。
 だったら、私の好意は……橋場さんにとって重荷なんじゃないか。

「……どうしたらいいの」

 答えの出ないまま歩いていると、見覚えのある不動産会社の前で足が止まった。
 以前、雨宿りをした場所だ。

「え……この辺なのに、こんなに安いの?」

 扉に貼られた新着物件のチラシがふと目に入ると、私は一気に視線を奪われた。
 こんな優良物件……飛びつくに決まっている。
 家賃も全然許容範囲だし、築年数もそこまで経っていない……。
 それに、防犯設備までしっかりしている。
 駅から少し歩くみたいだけど……自転車さえ買えば、どうにでもなる距離だ。

 橋場さんとの約束で、貯金だけはちゃんとしてきた。
 これなら、十分一人暮らしできる。

「仕事の次は……私生活も独り立ちしないと、だよね」

 このまま中途半端な距離感で、橋場さんを苦しめ続けるくらいなら……いっそ完全に離れた方がいい。
 橋場さんの家を出て、自分の力だけで生活して……恋愛に振り回されるんじゃなくて、ちゃんとした大人の女性になる。
 そうすればきっと、橋場さんも楽になれる。

 私は、光市の想いに応えることも、橋場さんを追いかけることも、やめることにした。
 だってそれが……私のせいで苦しんでいる橋場さんを救う、唯一の方法だから……。
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