完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】

第十話 愛する勇気 ~橋場律人side~

 どうして俺は、こんなにも意気地がないんだ……。

 ここ数日、毎朝悪夢とともに目を覚ましている。
 今日もまた、いつもの起床時間より一時間も早く目が覚めてしまい、つくづく面倒な体になったものだと、ため息をこぼした。

「向き合うって……決めたはずなのに……」

 ベッドの上で上半身を起こしたまま、じっと汗ばんだ手のひらを見つめる。
 全身にまとわりつくような嫌な冷汗が、不快感を増幅させていた。
 夢に出てくるのは、決まって昔付き合っていた女たちだ。
 俺の潔癖さや神経質さに嫌気が差し、最後には恨むような目を向けて離れていった歴代の恋人たち。
 まるで「お前のせいで人生を狂わされた」と責め立てるような顔が、今日も脳裏に焼きついて離れない。

 ここまで根深いものだったのか……俺の抱えている恋愛へのトラウマは。
 そのせいで、向き合うと決めたはずの石田にも、何一つ行動を起こせていない。
 話しかけようとしても、踏み込もうとすると体が拒絶するみたいに強張ってしまう。
 このまま何も伝えられなければ、石田は痺れを切らして俺のもとを離れていくかもしれないのに……。

 一度トイレで用を足し、水を飲んでから再びベッドへ戻る。
 どうせもうすぐアラームが鳴る時間だ。それでも一応、目を閉じてみた。
 当然のように頭は完全に冴え切っていて、再び眠りに落ちる気配はない。
 一刻も早く石田と向き合わなければ……そんな焦燥だけが、心の中にじわじわと広がっていく。

 ――気づけばまた、葛藤を抱えたまま朝を迎えていた。

 石田は、少なくとも表面上は何も変わっていない。
 この家で暮らし始めてから、あいつは数えきれないほど失敗を繰り返してきた。
 最初の頃なんて、皿洗い一つまともにできなかったのに……今では自分から進んで家事をやってくれるようになった。
 今日もいつも通り一緒に朝食を食べ、俺は少し早めに家を出た。
 石田はその後、朝食で使った食器を洗い、身支度を整えてから出社する。
 それが、ここ最近の当たり前の流れになっていた。

「石田もきっと……待ってるんだろうな……」

 駅からオフィスへ向かう途中、思わず口から漏れてしまった。
 石田は何も言わず、これまで通り俺との生活を受け入れるように過ごしている。
 だけど、本心ではきっと悩んでいるはずだ。

 石田と向き合うというような意味深なことを口にしておきながら、肝心の俺が何一つ行動を起こしていない。
 過去のトラウマに囚われたまま、想いを伝えられずにいる。
 不安にさせていないはずがないだろう。

 その情けない現状に、俺自身が一番苛立っていた。
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