完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
「ん、これは……」

 石田がこれまで書いてきた記事の資料や、他社の特集ページのコピー。デスクの上には、仕事に関する紙類が雑多に置かれている。
 その中で、一枚だけ妙に目を引く資料を発見した。
 それはグルメとは何の関係もない……賃貸物件の資料だった。

「俺の家からも、そう遠くない場所……ワンルームか」

 間取り図や家賃、周辺環境……目で追えば追うほど、石田が次に住む場所にしか見えなかった。
 そう考えると、さっと血の気が引く。

「どうしたの、橋場君」

 突然背後から声をかけられ、肩がびくりと跳ねる。
 慌てて資料を元の山に戻し、平静を装いながら振り返った。

「沖浦編集長……」

「あら、今何か隠したわね」

「そ、その……」

「橋場君がそこまで動揺するなんて珍しいわ。汗までかいてるし」

「ちょ、ちょっと暑くて……」

「どれどれ」

 沖浦編集長には、誤魔化しなんて通用しない。
 あっさりと物件資料を見つけ出され、じっと内容に目を通していく。
 そしてそのまま、今度は俺の顔を真っ直ぐ見上げてきた。

「橋場君、石田さんと……何かあったでしょ?」

 あまりにも核心を突いた一言で、さらに汗が滲み出てきた。
 反射的に周囲へ目を向けると、幸いにも残りのメンバーは全員外出中だった。
 この空間に沖浦編集長しかいないのを確認すると、ふっと肩の力が抜けてきた。

 もう……一人で抱え込むのは限界だ。

「実は……石田が俺の部下になった頃から、あいつは俺の家に居候しているんです」

 ずっと隠し続けてきた事実を、とうとう口にした。
 沖浦編集長なら、変に茶化したりせず、きちんと受け止めてくれる気がしたからだ。
 俺たちは会議室へ移動し、そこで改めて話を始めた。
 石田が失恋して住む場所を失ったこと。それをきっかけに、俺の家に住むようになったこと……。
 事細かく、俺たちの関係性の変化も交えて説明した。

「……なるほどね。だから石田さん、あんなに急激に成長したのか」

「失恋して、家もなくなって……それで居候させることになったんです。俺も日頃からかなり厳しく接していたので、その積み重ねで意識が変わっていったんだと思います」

「そこは理解できたわ。でも……橋場君も、その中で石田さんを好きになったのね?」

「……はい」

 今さら格好をつける必要もない。
 沖浦編集長相手なら、取り繕わない自分を見せられる。
 いや、そうでもしないと、この胸の苦しさを抱えきれなかった。

「でも、早く想いを伝えないと、他の男に取られちゃうわよ。石田さん」

「そ、そうなんですけど……」

「人を好きになるのが、怖いんでしょ」

「……え?」

「エマリさんから聞いたわ。橋場君の過去」

 そ、そうか……沖浦編集長、そこまで知っていたのか。
 エマリが話していたなんて……。

「このままでいいの、橋場君?」

「そ、それは……」

「一歩踏み出さないと、石田さん……本当にどこかへ行っちゃうわよ」

 石田が……どこかへ行ってしまう。
 改めて言われると、やっぱり嫌だ。
 この感情を乗り越えるには、やはり……本気の本気で想いをぶつけるしかない……。
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