完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
「この前ね、橋場君の過去のこと……石田さんに話しちゃったの」

「……え、話したんですか?」

「ごめんね、流れでつい」

「じゃあ石田は……俺が悩んでる理由を、察していた?」

「うん。石田さんの性格だもの。きっと、自分が橋場君を苦しめてるって考えてるかもね」

 つまり、石田が独り立ちを急いだ理由は……俺を悩みの渦から解放させようとしているから、なのかもしれない。
 それはそうだ。向き合うと言ったくせに、肝心なところで踏み出せない俺を見て……石田は、自分から離れるべきだと考えた。
 あいつらしい。どこまでも、自分より他人を優先する。

「沖浦編集長……俺……」

「だったら、もう答えは出てるでしょ?」

 沖浦編集長は、力強い瞳で俺を見据えながら言った。

「何してるの。早く行きなさい」

「……ありがとうございます!」

 深く頭を下げ、俺は会議室を飛び出した。
 石田が今どこにいるのかはわからない。
 それでも……とにかく走った。

 エレベーターを待つ時間すらもどかしくて、非常階段を駆け下りる。
 こんなに必死になるなんて、自分でも笑えてきた。
 走りながら、沖浦編集長との会話が何度も脳裏をよぎる。
 沖浦編集長の、あのどこかどっしりとした様子を見ると……もしかしたら、とっくにバレていたのかもしれないな。

 俺と石田の間に流れていた、あの不器用な感情に。

「もしかして、あそこか?」

 カナホリフーズとの打ち合わせなんて、きっと嘘のアポイントだ。
 真っ先に思い浮かんだのは、家の近くにあるあの不動産会社だった。
 以前、雨宿りしていた石田が、店先の物件情報をじっと眺めていたのを覚えている。

「……く、いないか」

 店内を覗いてみても、石田の姿は見当たらない。
 新しい部屋でも探しに来たのかと思ったが……どうやら違ったらしい。

「どこにいるんだ……」

 見当がつかず、思わず低く呟く。
 嘘のアポイントまで入れて、今日わざわざ時間を空けた理由。
 そこまでして、俺に隠したいことがあるというのか。
 だとしたら、石田はどこへ……。

「あいつ……まさか」

 嫌な予感が、頭をよぎる。
 もしかして石田は、俺が会社にいる間に……家を出ていこうとしているんじゃないか。
 あいつの性格を考えれば、その可能性は十分にある。

「黙って出ていくなんて、許さないぞ」

 確かに、今の俺たちの関係は複雑だ。
 だからといって、何の説明もなく家を出るなんて……そんなの筋が通っていない。
 それは優しさなんかじゃなく、ただ一人で全部抱え込んで逃げようとしているだけだ。
 明日からも同じ職場で顔を合わせるというのに、よくそんな無茶を考えつくな……。

 まだそうと決まったわけではないのに、石田への怒りが込み上げてくる。
 気づけば俺は、そのまま全力で家へ向かって走り出していた。
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