完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
「……石田、いるのか!?」
玄関へ飛び込んだ瞬間、リビングの方から物音が聞こえた。
急いで靴を脱ぎ、廊下を進む。
すると、石田の部屋の中央にキャリーケースがぽつんと置かれているのが目に入った。
「えっ!? 橋場さん、どうして……」
驚いた様子で、石田がリビングの扉を開ける。
同時に、揚げ物の香ばしい匂いがふわりと流れてきた。
俺に内緒で……料理をしていた?
「カナホリフーズとの打ち合わせなんて……お前がするわけないだろ。何を企んでいるんだ?」
「そ、それは……」
言葉を濁す石田を横目に、キッチンへ入る。
そこには、ついさっき揚げ終えたばかりらしいコロッケが並んでいた。
皿の上に敷かれたキッチンペーパー。その上に、綺麗なきつね色のコロッケがいくつも乗っている。
「これを作ってたのか?」
石田は観念したように、小さく頷いた。
「はい。最初に橋場さんから教わったコロッケを……一人で作ってみようと思って」
「仕事をサボってまで、どうしてそんなことをした?」
「……もう、一人でもちゃんと生きていけるってところを……証明したくて」
その返答に、俺は一瞬言葉を失った。
それとコロッケに、何の関係がある……そう聞き返そうとした時、石田が自分から続きを口にする。
「このコロッケが、もし美味しかったら……この家を卒業させてください」
「……卒業?」
「はい」
石田は、ぎゅっとエプロンの裾を握りながらこちらを見た。
「仕事の面では、もう独り立ちできました。あとは私生活の面だけです。家事も、前よりちゃんとできるようになったし……料理だって、少しは上達したと思います」
「……だから?」
「このコロッケが合格だったら、私はこの家を出ていきます……」
静かな声だった。
けれど、その一言一言には覚悟が滲んでいる。
「これ以上、橋場さんにお世話になるのは……よくないと思うので」
そんなに俺から離れたいのか……。
石田の部屋に置いてあるキャリーケースを見るに、覚悟は決まっているのだと悟った。
気持ちはもう……あの彼にある……ってことなのか?
だから最後に筋を通すつもりで、このコロッケを作った……。
「橋場さん、座ってください」
石田に促されるまま、俺はダイニングチェアへ腰を下ろした。
そこでようやく気づく。
リビング全体が、朝よりも明らかに綺麗になっていた。
床も壁も磨かれたように艶があり、生活感の乱れがほとんど見当たらない。
「掃除もしてくれたのか?」
キッチンで最後の盛り付けをしている石田へ声をかける。
石田は顔を上げ、ニコッと微笑んだ。
この家へ来たばかりの頃の、ズボラな自分はもういないと、誇示しているような笑顔だった。
「どうぞ、召し上がれ」
目の前に並べられたのは、こんがりと揚がったコロッケと、千切りキャベツの付け合わせ。
俺が作ったものと比べても、遜色ないほど丁寧な仕上がりだった。
玄関へ飛び込んだ瞬間、リビングの方から物音が聞こえた。
急いで靴を脱ぎ、廊下を進む。
すると、石田の部屋の中央にキャリーケースがぽつんと置かれているのが目に入った。
「えっ!? 橋場さん、どうして……」
驚いた様子で、石田がリビングの扉を開ける。
同時に、揚げ物の香ばしい匂いがふわりと流れてきた。
俺に内緒で……料理をしていた?
「カナホリフーズとの打ち合わせなんて……お前がするわけないだろ。何を企んでいるんだ?」
「そ、それは……」
言葉を濁す石田を横目に、キッチンへ入る。
そこには、ついさっき揚げ終えたばかりらしいコロッケが並んでいた。
皿の上に敷かれたキッチンペーパー。その上に、綺麗なきつね色のコロッケがいくつも乗っている。
「これを作ってたのか?」
石田は観念したように、小さく頷いた。
「はい。最初に橋場さんから教わったコロッケを……一人で作ってみようと思って」
「仕事をサボってまで、どうしてそんなことをした?」
「……もう、一人でもちゃんと生きていけるってところを……証明したくて」
その返答に、俺は一瞬言葉を失った。
それとコロッケに、何の関係がある……そう聞き返そうとした時、石田が自分から続きを口にする。
「このコロッケが、もし美味しかったら……この家を卒業させてください」
「……卒業?」
「はい」
石田は、ぎゅっとエプロンの裾を握りながらこちらを見た。
「仕事の面では、もう独り立ちできました。あとは私生活の面だけです。家事も、前よりちゃんとできるようになったし……料理だって、少しは上達したと思います」
「……だから?」
「このコロッケが合格だったら、私はこの家を出ていきます……」
静かな声だった。
けれど、その一言一言には覚悟が滲んでいる。
「これ以上、橋場さんにお世話になるのは……よくないと思うので」
そんなに俺から離れたいのか……。
石田の部屋に置いてあるキャリーケースを見るに、覚悟は決まっているのだと悟った。
気持ちはもう……あの彼にある……ってことなのか?
だから最後に筋を通すつもりで、このコロッケを作った……。
「橋場さん、座ってください」
石田に促されるまま、俺はダイニングチェアへ腰を下ろした。
そこでようやく気づく。
リビング全体が、朝よりも明らかに綺麗になっていた。
床も壁も磨かれたように艶があり、生活感の乱れがほとんど見当たらない。
「掃除もしてくれたのか?」
キッチンで最後の盛り付けをしている石田へ声をかける。
石田は顔を上げ、ニコッと微笑んだ。
この家へ来たばかりの頃の、ズボラな自分はもういないと、誇示しているような笑顔だった。
「どうぞ、召し上がれ」
目の前に並べられたのは、こんがりと揚がったコロッケと、千切りキャベツの付け合わせ。
俺が作ったものと比べても、遜色ないほど丁寧な仕上がりだった。