完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
「じゃあ……」
箸を手に取り、コロッケを半分に割る。どうしてこんな流れになっているのか、正直まだ頭が追いついていなかった。
それでも、あれだけ覚悟を決めた顔をされてしまった以上、食べないという選択肢はない。
割れた断面から、湯気がふわりと立ち上る。
「いただきます」
これが美味かったら、石田はこの家を出ていく。
そんな現実に納得できないまま、とりあえず口へ運んだ。
口にした瞬間……揚げたての衣が軽やかに砕け、中の具材の旨味が一気に広がる。
「……美味い。食感も味も……申し分ないな」
塩気と甘みのバランスもいい……味付けは完璧だ。
前の石田なら、砂糖と塩を間違えていても不思議じゃなかったのに。
どうやら、あの頃の石田はもういないらしい……。
「本当ですか? ちょ、ちょっと私も……」
向かいへ座った石田が、嬉しそうに箸を伸ばす。
何だ……ここまで言っておきながら、まだ完全な自信はなかったのか。
「うわ、美味しい! 私が作ったとは思えない!」
「どうして自分で驚いてるんだよ。自信があるから、そんな話を持ち出したんじゃないのか?」
「ま、まあ……そうですけど……揚げ物って、実際やってみないと成功するかわからないじゃないですか」
ということは、石田の中でも絶対に成功するという確信があったわけじゃないのか。
もし不合格だったら、どうするつもりだったんだ……。
こういうところは相変わらず、爪が甘い。
まあ、味は間違いなく合格だ。
それでも、その言葉だけは簡単に口にできない。
合格だと認めた瞬間、石田はこの家を出ていく。
それは、本当に石田が望んでいることなのか……どうしても、その答えが気になって仕方なかった。
「石田は……この家を出ていきたいのか?」
「……え?」
「正直に言ってくれ」
「……そ、それは」
「沖浦編集長から聞いた。俺の恋愛に対するトラウマを、石田は知ってるんだってな。向き合うと言っておきながら、何もできていない俺を見て……痺れを切らしたのか?」
石田は箸をそっと置き、唇を閉ざした。
視線をテーブルへ落としたまま、答えを探すように黙り込む。
その沈黙が苦しくて、俺は思わず追い打ちをかけるような言葉を吐いてしまった。
「……こんな俺より、ちゃんと愛してくれる男の方がいいよな」
弱々しいその一言で、石田の表情が一変する。
勢いよく立ち上がり、首を何度も横に振った。
「違います! 私は、橋場さんが苦しんでる姿を見るのが辛かっただけです!」
「辛かっただけ? 本当に俺のためだけなのか?」
「はい! 私だって……できることなら……まだこの家にいたいです」
最後の方は、消え入りそうな声だった。
その本音を絞り出すような言い方に、胸が強く締めつけられる。
「でも、橋場さん……苦しそうだったから……私のことを意識するたびに、悩んでるのが伝わってきて……」
震える声が、静かなリビングに落ちていく。
「だから私、橋場さんを困らせるくらいなら、一人でもちゃんと生きていけるようになろうって……そう思ったんです」
箸を手に取り、コロッケを半分に割る。どうしてこんな流れになっているのか、正直まだ頭が追いついていなかった。
それでも、あれだけ覚悟を決めた顔をされてしまった以上、食べないという選択肢はない。
割れた断面から、湯気がふわりと立ち上る。
「いただきます」
これが美味かったら、石田はこの家を出ていく。
そんな現実に納得できないまま、とりあえず口へ運んだ。
口にした瞬間……揚げたての衣が軽やかに砕け、中の具材の旨味が一気に広がる。
「……美味い。食感も味も……申し分ないな」
塩気と甘みのバランスもいい……味付けは完璧だ。
前の石田なら、砂糖と塩を間違えていても不思議じゃなかったのに。
どうやら、あの頃の石田はもういないらしい……。
「本当ですか? ちょ、ちょっと私も……」
向かいへ座った石田が、嬉しそうに箸を伸ばす。
何だ……ここまで言っておきながら、まだ完全な自信はなかったのか。
「うわ、美味しい! 私が作ったとは思えない!」
「どうして自分で驚いてるんだよ。自信があるから、そんな話を持ち出したんじゃないのか?」
「ま、まあ……そうですけど……揚げ物って、実際やってみないと成功するかわからないじゃないですか」
ということは、石田の中でも絶対に成功するという確信があったわけじゃないのか。
もし不合格だったら、どうするつもりだったんだ……。
こういうところは相変わらず、爪が甘い。
まあ、味は間違いなく合格だ。
それでも、その言葉だけは簡単に口にできない。
合格だと認めた瞬間、石田はこの家を出ていく。
それは、本当に石田が望んでいることなのか……どうしても、その答えが気になって仕方なかった。
「石田は……この家を出ていきたいのか?」
「……え?」
「正直に言ってくれ」
「……そ、それは」
「沖浦編集長から聞いた。俺の恋愛に対するトラウマを、石田は知ってるんだってな。向き合うと言っておきながら、何もできていない俺を見て……痺れを切らしたのか?」
石田は箸をそっと置き、唇を閉ざした。
視線をテーブルへ落としたまま、答えを探すように黙り込む。
その沈黙が苦しくて、俺は思わず追い打ちをかけるような言葉を吐いてしまった。
「……こんな俺より、ちゃんと愛してくれる男の方がいいよな」
弱々しいその一言で、石田の表情が一変する。
勢いよく立ち上がり、首を何度も横に振った。
「違います! 私は、橋場さんが苦しんでる姿を見るのが辛かっただけです!」
「辛かっただけ? 本当に俺のためだけなのか?」
「はい! 私だって……できることなら……まだこの家にいたいです」
最後の方は、消え入りそうな声だった。
その本音を絞り出すような言い方に、胸が強く締めつけられる。
「でも、橋場さん……苦しそうだったから……私のことを意識するたびに、悩んでるのが伝わってきて……」
震える声が、静かなリビングに落ちていく。
「だから私、橋場さんを困らせるくらいなら、一人でもちゃんと生きていけるようになろうって……そう思ったんです」