完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】
 ――橋場さんに、触れたい。

 沖浦さんと話してから、その想いが頭から離れなくなっていた。
 仕事中も、気づけば何度も橋場さんのデスクへ視線を向けてしまう。
 真剣な表情でパソコンに向かう姿を見るたびに、胸が高鳴った。
 私の彼氏は……どうしてあんなに完璧なんだろう。

 考えてみれば、付き合うことになったというのに、まだキスより先には進んでいない。
 もっと、橋場さんと近づきたい……。
 もっと、橋場さんを感じたい……。

 そうやって悶々としたまま仕事をしていると、頭がおかしくなりそうだった。

「橋場さん、おかえりなさい!」

 橋場さんはいつも残業続きだ。私は定時で帰ることが多いため、こうして玄関で出迎えるのが日課になりつつある。
 想いが日に日に大きくなっている私は、まだ靴も脱いでいない橋場さんに思わず抱きついた。

「どうしたんだ、いきなり」

「早く……二人きりになりたかったです」

 これまで自分から甘えることなんて、ほとんどなかった。
 だけど今は、無性に橋場さんに甘えたかった……。

「……俺もだよ」

 橋場さんはカバンを床に置き、抱きしめてくれる。
 少しは困った顔をされるかと思っていたから、その反応は意外だった。

「何かいいことでもあったのか?」

 耳元で、囁くように聞かれる。
 いつもと違う私の様子に気づき、その理由を知りたいらしい。
 私は素直に、想いを口にした。

「ようやく……橋場さんと付き合えたんだって実感が湧いてきて。それが嬉しくて」

「……可愛いやつだな」

 橋場さんはそのまま私の手を取り、リビングへと導いた。
 ソファに並んで座り、じっと目を見つめられる。
 空気がふっと変わった……。
 私が密かに期待していた時間が訪れたのだと気づいた瞬間、胸の鼓動が一気に騒がしくなる。
 スーツ姿の橋場さんが、ゆっくりと距離を縮めてきた。

 そのまま唇が触れ合い、名残惜しさを残したまま離れる。
 橋場さんは小さく息を吐き、柔らかく口元を緩めた。
 そして、私を見つめたまま静かに「花音」と名前を呼んだ。

「あ……下の名前で……」

 橋場さんの頬がわずかに赤く染まる。
 そんな照れた表情が愛おしくて、自然と私の口元も緩んだ。

「橋場さん……大好きです」

「おいおい。俺が名前で呼んだんだから……そろそろその呼び方は卒業しろ」

「あ……はい。えーと、律人……さん?」

 下の名前を口にしただけなのに、頬が一気に熱くなる。
 橋場さんは少し目を丸くして、それから優しく笑った。

「破壊力あるな、それ」

「な、何がですか」

「好きな子に名前で呼ばれるのが」

 不意打ちすぎる一言に、また心臓が落ち着きをなくす。
 今までの橋場さんからは、到底想像できない言葉をかけられた。
 堪らず、今度は私から唇を重ねる……。
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