完璧な上司に飼われてます! 〜ズボラ女子の居候日記〜【長編版】

第二話 正反対の生活

 ――まさか、こんな展開になるなんて……。

「ここ、好きに使っていい部屋だ。ちょうど使い道がなくて、困っていたところだった」

「……は、はあ」

 橋場さんの家は、中野坂上にあった。低層マンションの三階、その角部屋。
 まだ新築の綺麗な2LDKは、一人暮らしにしては明らかに広すぎる。

「荷物を置いたら、リビングに来い」

「……はい」

 どうしてこうなったのか……自分でもよくわかっていない。
 ただ一つ確かなのは、住む家がないという現実からは救われたということ。

 ……でも。

 居候先が直属の上司で、しかも男。
 選択肢がなかったとはいえ、こんな状況を受け入れている自分が、少し情けなくて恥ずかしい。

「とりあえず……なるようになるか……」

 玄関から続く廊下の奥に、リビングと寝室。
 途中にいくつか扉が並んでいて、その一つが私の部屋らしい。
 残りはきっと、バスルームとトイレだろう。

 重たいキャリーケースを引きずりながら中へ入ろうとした、その時。
 先にリビングへ行っていたはずの橋場さんが、踵を返して戻ってきた。

「待て、ストップ」

「……え?」

「これでキャスターを拭け。それから中に入れろ」

 差し出されたのは、ウエットティッシュだった。

「……はい」

 キャスターに絡みついた、埃やら砂やらを拭き取る。
 これ……自分の家だったら、確実にそのまま入ってたな。

「……終わりました」

「よし」

 満足そうに頷く橋場さん。

「こういうところだ」

「……え?」

「こういうところが、ズボラなんだよ」

「……反省してます」

 小さく呟くと、橋場さんは少しだけ口元を緩めた。

「布団はクローゼットに入ってる。シーツの交換は週に一回な」

「週一? 多くないですか?」

「多くない。俺の基準だ」

「ええ……」

「ここに住む以上、俺のペースに合わせろ。郷に入っては郷に従え、だ」

「は、はい……」

 反論したかったけど、即座に封じられた。
 鍛えるって、こういうことか……。

 部屋は六畳ほどの、本当に何もない空間。
 家具らしい家具はエアコンのみで、あとは壁と床とクローゼットだけ。
 そのクローゼットの中には、布団収納袋が二つ。
 中身は敷き布団と掛け布団、そして替えのシーツらしい。

 清潔感……強すぎだ。

 ハンガーが少し空いているのを見て、あとで服を掛けさせてもらおうと考える。

「じゃあ、リビングに来い」

「あ、はい!」

 廊下の奥の扉を開けると、長方形のリビングが広がっていた。
 入ってすぐ左に、キッチンカウンター。その前にダイニングで、奥にはソファとテレビ。

「あの部屋は……」

「ああ、寝室だ」

 リビングの一角にある仕切り扉、その向こう側は寝室か……。
 改めて、一人で住むには広い家だな……。

「とりあえず、座れ」

「わかりました……」

 ダイニングテーブルに向かい合って座ると、橋場さんは腕を組んだ。

「この家に住むにあたって、前もってルールを決めておく」

「……ルール?」

「好き勝手されたら、堪ったもんじゃないからな」

「……好き勝手なんか、しないですよ!」

 思わずムッとして言い返すと、橋場さんは鼻で笑った。

「自覚がないのが、一番厄介だ」

「……うっ」

 ぐうの音も出ない。
 これから、私にとって厳しいルールが設けられるみたいだ……。
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