悪辣魔王の腕のなか
「それに前に教えてあげたでしょう? ――彼は〝悪い男〟だから」
口端だけで篤之はニヤッと笑う。
衣都が響司の黒い噂を耳にしたのは、今日で二度目。
一度目は、篤之の口から聞いたのだ。
(柚木先生は私も苦手だけど、だからといって本人のいないところでの悪口は嫌だな)
篤之はお喋り好きだ。響司以外のドクターのゴシップネタもよく話しているし、あまり悪気はないのだろうけど――。
その証拠に、彼は響司の話などすぐに終わらせ、ふたたび衣都を口説き出した。
「てことで、衣都ちゃんには僕のほうが似合うと思うんだよね! ね、一度くらいデートしてくれても」
真剣な誘いならこちらも真面目に返事をするが、とてもそうとは思えない。
弱りきった衣都の肩に篤之の手が伸びてきた、そのときだった。
「――川中島先生」
衣都にとっては助け船となる声が届いた。瞳を動かして声の主を確認した篤之が「ちっ」と小さく舌打ちする。
「昨日の解剖の件で確認したい点がありまして。一緒に来ていただけますか?」
彼を呼んだのは響司だった。衣都には見向きもせず、そして篤之の返事も待たずに、彼はもうスタスタと歩き出していた。
「なんだよ、いきなり」
悪態をつきながらも、篤之も彼のあとを追った。
遠ざかっていくふたりの背中を眺めて、衣都はホッと息を吐いた。
口端だけで篤之はニヤッと笑う。
衣都が響司の黒い噂を耳にしたのは、今日で二度目。
一度目は、篤之の口から聞いたのだ。
(柚木先生は私も苦手だけど、だからといって本人のいないところでの悪口は嫌だな)
篤之はお喋り好きだ。響司以外のドクターのゴシップネタもよく話しているし、あまり悪気はないのだろうけど――。
その証拠に、彼は響司の話などすぐに終わらせ、ふたたび衣都を口説き出した。
「てことで、衣都ちゃんには僕のほうが似合うと思うんだよね! ね、一度くらいデートしてくれても」
真剣な誘いならこちらも真面目に返事をするが、とてもそうとは思えない。
弱りきった衣都の肩に篤之の手が伸びてきた、そのときだった。
「――川中島先生」
衣都にとっては助け船となる声が届いた。瞳を動かして声の主を確認した篤之が「ちっ」と小さく舌打ちする。
「昨日の解剖の件で確認したい点がありまして。一緒に来ていただけますか?」
彼を呼んだのは響司だった。衣都には見向きもせず、そして篤之の返事も待たずに、彼はもうスタスタと歩き出していた。
「なんだよ、いきなり」
悪態をつきながらも、篤之も彼のあとを追った。
遠ざかっていくふたりの背中を眺めて、衣都はホッと息を吐いた。