悪辣魔王の腕のなか
 モダンな絵画が等間隔に飾られている、ピカピカの廊下を通って広々とした中庭に出る。

 この柚木記念病院は品川区の高級住宅街である御殿山のお膝元に立地しており、建物の外観や内装はホテルなみにラグジュアリー。患者には、名の知られたセレブリティも多い。もちろん見かけ倒しではなく、提供する医療サービスも一流だ。最先端の設備と技術、そして指折りの名医が揃っている。

 数年前に新設されたばかりの法医学センターは別棟になっていて、ほかの科がある中央棟からは中庭を挟んで少し距離がある。この時間はあまり人気のない中庭を歩いていると、反対側からふたりの女性看護師がやってきた。
 休憩で食堂にでも向かうのだろうか。すれ違いざまに、楽しそうなお喋りが漏れ聞こえてくる。

「はぁ、奏真先生は今日も貴公子だったわ。あの顔を一目拝めたら、それだけで夜勤もがんばれる!」
「私は響司先生派だな~。あの危険な色気がたまらなくない?」

 操の言ったとおり、ふたりともめったにお目にかかれない美形なのは間違いない。加えて、この病院の創業一族の御曹司。女性陣からの人気が絶大なのは理解できる。

「ん~、危険な雰囲気だけならいいけど。彼の場合、リアルに危ない男って噂でしょう」
「あんなの、デマに決まってる! 優秀だから嫉妬されてるのよ、響司先生」
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