悪辣魔王の腕のなか
『性格はほんっとにアレだけど、法医解剖医としてはとんでもなく優秀よ。万が一、私が変死したら絶対に響司先生に解剖してもらいたいもの』

 いつだったか、操がそんな縁起でもない発言をしていた。でも、技師として何人もの法医学ドクターと仕事をしてきた彼女が言うのだから、響司の実力は本物だろう。

(もし改ざんなんかしていたら、そんな評価は得られないものね)

「――衣都ちゃんっ」

 背後に人の気配を感じたと思ったら、急に背中をポンッと押される。
 振り返ると、響司と同じ法医学ドクターの川中島篤之(かわなかじまあつゆき)が立っていた。

「川中島先生。お、脅かさないでくださいよ」
「ごめん、ごめん。なんか難しい顔をしてたから、声かけていいのか迷っちゃって」

 篤之の年齢はたしか三十五歳だが、実年齢より若々しい雰囲気がある。よくいえば愛想がいい、悪くいうとやや軟派な男性だ。

「衣都ちゃんは今日も清楚でかわいいね。その髪型、よく似合うよ」

 あまり心のこもらないお世辞をさらりと口にして、彼はニコッとほほ笑む。
 オールバックにした清潔感のある短髪、あっさりした塩顔で親しみやすい垂れ目。都会的でスマートな雰囲気も込みで、女性からの好感度は高く、本人もそれを十分に自覚している。
 まだまだ遊んでいたいから独身なんだろう、周囲からはそんなふうにささやかれていた。
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