推しの妻になりました〜アイドルと契約結婚〜
第21話 ただいま

如月邸を出て、マンションの駐車場に車が滑り込むまでの間、車内は沈黙に包まれていた。
けれどそれは、さっきまでの張り詰めた緊張とは違う、どこか熱を帯びた静寂だった。
部屋に入った瞬間、苺依は玄関でへなへなと座り込んだ。
「……終わった……。本当に、終わった……」
緊張の糸が切れた苺依を見て、TOMAが小さく笑う。
眉間の皺が消え、少しだけ口角を上げた、ファンの誰もが知る「TOMA」の表情。
「おい、いつまで座ってんだ。そうやってると本当に大福みたいだな」
「……っ、大福じゃありません!」
苺依が慌てて立ち上がると、TOMAはわざとらしく顔を覗き込んできた。
今は余裕たっぷりの、意地悪なアイドルの顔をしている。
「で、さっきの『宣言』」
「宣言?」
「……俺を、不幸にはしないんだったか?」
彼は苺依を壁際に追い詰め、耳元で低く囁く。
「……口だけじゃなくて、本当に俺のこと幸せにできるのかよ……コンシェルジュ様?」
「うっ……! そ、それは……」
真っ赤になって口ごもる苺依を見て、TOMAは心底楽しそうに喉を鳴らした。
「……言っとくけど、俺、相当扱いづらいぞ? 完璧なファンサも、甘い言葉も、全部お前が引き受けることになるんだからな」
さすがアイドル。
こんなドラマみたいな状況でも様になる。
苺依は心臓が口から飛び出しそうなほど高鳴るのを感じながら、顔を真っ赤にして、それでも負けじと彼を見上げた。
「そ……そんなの、最初からわかってます!」
震える声で、必死に言い返す。
「女に二言はありません!」
「……っ」
予想外の強気な返しに、TOMAの方が一瞬、言葉に詰まる。
「……はっ。……ったく。調子に乗るなよ、コンシェルジュ見習い」
TOMAは呆れたように笑った。
そして苺依の手を引いてリビングへと歩き出す。
「とりあえず……腹減った。オムレツ、また作れよ」
それは、TOMAなりの「おかえり」であり、明日もまたこの場所で「二人」でいようという約束のように聞こえた。
――To be continued