推しの妻になりました〜アイドルと契約結婚〜
第23話 不公平

「彼の隣に相応しいのはあなたじゃないの。分かるわよね?」
「それは……つまり………」
唇が震える。
彼女は苺依の顎を、軽く、しかし逃がさない力加減で持ち上げた。
「これ以上、彼の人生を安っぽくしないで。私の隣にふさわしい、最高の輝きを彼に与えるのが私の務めなんだから」
「っ……」
反論しようにも、今はただのホテルコンシェルジュだ。
ここで揉め事を起こすわけにいかず、苺依はただ耐えた。
「………」
「あ、そうだ。このシャンパン、とても美味しかったわ」
そう言って彼女は空いたグラスを苺依に渡した。
「ここのホテルのサービスは気に入ってるの。いつまでもこの質を保ってちょうだいね」
「……かしこまりました」
「用はそれだけよ。行っていいわ」
「……失礼いたします」
こちらを見もしない彼女の背中にお辞儀をして、苺依は部屋から退出した。
背中越しにパタン、とドアが静かに閉まる。
(今の人が……本当の婚約者……)
あれだけ「幸せにする」と啖呵を切った翌日にもう打ちのめされた。
なにもかもが、敵わない、と思った。
佇まいや風格、持って生まれた世界がそもそも違う。
同じ人間とは思えないくらいの差。
そう。
世の中は絶対に公平ではない、というのを痛感する。
自分という存在が「無」に等しいと叩きつけられる。
「………はぁ」
彼女の絶望的な力に苺依の胸は冷たく凍りついた。
――To be continued