推しの妻になりました〜アイドルと契約結婚〜
第38話 指先のゆくえ

耀一の家を後にして、夜の首都高を走る車内。
窓の外を流れるオレンジ色の街灯が、二人を交互に照らす。
「……疲れたか」
「平気です。それに、すごく楽しかったです。皆さん、本当に温かくて……凛ちゃん、可愛いですね」
苺依がそう言うと、TOMAは「……ふん。うるせぇ連中だろ」と毒づきながらも、どこか誇らしげな顔をしていた。
「……TOMAさんは、子供が好きなんですね」
「あ?」
「今日、凛ちゃんと遊んでいる時のTOMAさん、とてもいい笑顔だったので」
「……っ、見てんじゃねぇよ」
真っ赤になってハンドルを握りしめるTOMA。
照れ隠しなんだと分かると可愛くてつい笑ってしまう。
「ふふ……」
そのまま車内には低いエンジン音と流れ続けるラジオの微かなジャズが支配する。
数分後……。
助手席の苺依はこっくりこっくりと船を漕ぎ始めていた。
今日の気づかれと、心地よい振動に苺依の意識は遠ざかって行く。
そして車は駐車場に到着した。
「おい、いちご。降りる……」
そこには規則正しい寝息をたてて、苺依が熟睡していた。
TOMAの声に苺依は「ん……」と小さく身悶えしただけで、起きる気配はない。
「まじかよ……」
気持ちよさそうに眠る苺依の首筋に一房かかった髪。
そこから覗く白い肌。
(……こいつ、本当に……)
警戒心のかけらもない寝顔。
TOMAは吸い寄せられるように、ゆっくりとその肌に手を伸ばした。
「…………」
指先が、苺依の柔らかな頬に触れるか触れないかの距離まで近づく。
TOMAの喉が微かに鳴った。
「っ…………」
あと、数センチ。
指先に伝わる微かな体温。
その時だった……。
「ん……TOMA……さん……」
「っ……!」
TOMAは弾かれたように手を引っ込めた。
「………はぁ……」
TOMAの心臓が警鐘を鳴らすように跳ねる。
あと一歩、遅ければ。
「あっぶねぇ……」
TOMAはハンドルを握りしめ、額を押し当てた。
薄暗い車内の中で、TOMAの頬が赤く染まっていたことを苺依はまだ知らない。
――To be continued