推しの妻になりました〜アイドルと契約結婚〜
第39話 レンズ越しの彼

それは突然のことだった。
TOMAとの同居も慣れてきたある日。
久々の一人休日に、苺依はゆるいスウェットに身を包んでいた。
「よーし、今日は溜まってたドラマ観るぞ!」
ソファに寝そべり、心ゆくまでゴロゴロする。
それが苺依にとって最高の休日の過ごし方。
「何から観ようかな~」
リモコンを操作しながらポップコーンを食べようとした時だった。
――ヴーヴー、ヴーヴー……
苺依の携帯に着信が入る。
「ん? TOMAさん? はい、もしもし?」
『――おい、いちご! 俺の部屋のデスクにある、黒いファイル……予備の絵コンテ入ってるやつ、すぐ持ってきてくれ』
「えっ、今からですか……?」
『一時間以内にだ。住所送る、じゃあな!』
「え、ちょっと! TOMAさん!?」
――プー…プー…
苺依の返事も聞かずに電話は一方的に切れていた。
「もう! いきなり切ることないでしょ! 自分勝手なんだから!」
苺依の行き場のない怒りは抱き締めていたクッションに吸収された。
*
一時間後。
苺依は都内の某スタジオに来ていた。
「こういう所ってなんでこんなに同じような景色ばっかなのよ」
TOMAに指定されたスタジオへたどり着くのに、迷いに迷っていた。
到着して十分後、ようやく目当てのスタジオにたどり着いた。
スタジオ内は、機材の唸る音とスタッフの怒号が飛び交う、異様な熱気に包まれていた。
恐る恐る奥へ進んだ苺依は、そこで足を止める。
「っ………!」
そこには、自分の知っている「不器用で口の悪いTOMA」はいなかった。
セットの中央、無機質な照明に照らされ、カメラを射抜くような鋭い視線を送る……超人気アイドルTOMA。
(やっぱり……)
「……かっこいい……」
息を呑み、無意識に出た言葉。
一挙手一投足が、計算された美しさを持っていて……。
改めて、自分が「とんでもない人」と契約結婚していることを突きつけられた気がした。
「これ、どうしよう。忙しそうだし誰かに預けようかな」
撮影中のTOMAを見て苺依は近くのスタッフに声をかけた。
「すみません、TOMAさんに頼まれた資料をお届けに来たのですが……」
「ああ、はいはい。ありがと」
面倒くさそうにあしらわれる。
(なによ……こっちだって好きで来たんじゃないんだから!)
心の中で毒づきながら帰ろうとした時だった。
「ちょっと、君!」
その声に苺依は振り返りもせず出口に向かう。
だが、寸前のところで手首を掴まれる。
「君!」
「きゃっ!」
「ちょっと、今、いい?」
「は、い?」
――To be continued