推しの妻になりました〜アイドルと契約結婚〜
第40話 誘惑のパルファム

「ちょっと、今、いい?」
「は、い? なんですか?」
そこで苺依はとんでもないことをお願いされる。
「頼む! 少しでいいから力を貸してくれないか?」
「どういうことですか」
「実は、今日来る予定だった女性のモデルが急遽体調不良で来れなくなってしまったの」
「だから、君にその代役をお願いしたい」
監督と思わしき男性が言う。
「ええ!? 私が、ですか?」
モデルという単語に苺依は驚きを隠せない。
隣にいた女性はすかさず苺依に名詞を手渡した。
「驚かせてごめんなさいね。私は今回の香水ブランドの企画を担当してる麻生と申します」
「あ、はい……」
苺依は条件反射でその名刺を受け取った。
『株式会社Veloura(ヴェルーラ)』
女性向けを代表するブランドで、今回はXENOとのコラボ香水が話題を呼んでいた。
「急なお願いだけど、どうかしら? もちろん顔は写さないわ。後ろ姿だけでいいの」
「そんな、急に言われても……」
そんな大役、自分に務まるはずがないと苺依は萎縮する。
なんと言ってもXENOとのコラボ香水はファンの間でも注目のアイテムなのだから。
「あ、あの……」
断ろうとした時、横から人の気配を感じた。
「おい、何してんだ?」
「TOMAさん……」
監督が事情を説明するとTOMAの顔色が変わった。
「ダメだ。こいつはただ荷物を届けに来た素人だ。代わりなんて務まるかよ」
断ろうとはしてたけど、TOMAの言い方になぜかカチンとしてしまう苺依。
「そ、そんな言い方しなくても!」
「は? なんだよ、やりたいのか?」
「そうじゃないですけど、他に言いようがあるじゃないですか」
そこへXENOのメンバーもやってくる。
「なに、どうしたの?」
リーダーのRYUさんのおかげで少し治まるが、TOMAはずっと反対していた。
事情を知ったXENOのメンバーは……。
「モデルの代打か」
「いいじゃん、雰囲気あるし。後ろ姿だけでしょ?」
意外にもRYUは肯定派だった。
「どうせ顔は映らないんだし。トマ、そんなにムキにならなくてもいいだろ?」
「なってねぇ」
「ならいいじゃないか。むしろ、見慣れない子より知ってる子の方が緊張しないでしょ」
RYUの涼やかな笑みに、現場の空気も「やってみよう」という流れに傾いていく。
「……チッ……勝手にしろ」
TOMAは苦々しく顔を背けた。
断ろうという雰囲気はもうそこにはなく、苺依は有無を言わさずフィッティングルームへと連れて行かれた。
――To be continued