恋と結婚は別物です! 偽装結婚のはずなのに、強気なナースはフライトドクターの一途な愛に溶かされる
 想定される患者の中には、子どもも含まれる。
 私は足元に置いていた小児処置用バッグを持ち上げて、中から気管挿管キットの入ったポーチを取り出した。
 子どもと大人では、挿管する管の細さが違うのだ。

 私はそれを自身のウエストバッグへしまった。必要になった時、すぐに取り出せるように。

 先に現場に着いた消防からの無線で、徐々に状況がわかってくる。
 乗用車に乗っていたのは三人家族で、子どもは救出済み。父親と母親の救出に難航しているらしい。

 私は今度は大人用の挿管器具、それから点滴も用意した。
 できるだけ早く治療を開始して、患者の負担を減らしたい。

 私はポケットに忍ばせた祖母のお守りがそこにあるのを感じながら、冷静に、落ち着いて、自分にできることを先回りしてやるのだと集中した。

 ヘリコプターは現場近くの、工場の駐車場に着陸した。ランデブーポイントではないが、ここが一番現場に近い。

 私はすぐに外に飛び出した龍臣さんに続いて、ドクターヘリを降りた。
 現場へと急ぐ彼の手には、ドクター用バッグ。そんな彼の姿が、とても頼もしい。

 現場の交差点に着くと、すぐにその悲惨さが目に飛び込んできた。
 横転したトラックの下で、無残にも大破している乗用車。そこでは救助隊が、必死に動き回っている。

「おかあさん、おかあさん!」

 救助隊のひとりに抱えられた五歳くらいの男の子が、車に向かって泣きながら手を伸ばしていた。
 その光景に、胸が痛いくらいに締めつけられる。それでも、私は必死に足を動かした。

< 106 / 144 >

この作品をシェア

pagetop