恋と結婚は別物です! 偽装結婚のはずなのに、強気なナースはフライトドクターの一途な愛に溶かされる
 彼はそれに構わず、救命に向けて動き出す。
 彼が顔を上げた時、目が合った。

「守山、ストレッチャー。ERに運ぶぞ」

 いつもと同じ、淡々とした指示。しかしその強い口調からは、祖母を救いたいという使命感が伝わってくる。

 それでも、私は動くことができなかった。

 このまま、祖母までいなくなってしまったら――。
 そんな未来を想像してしまったのだ。

「詩音!」

 夏子が私の名を耳元で呼んでくれる。その声で我に返り、意識して呼吸を整えた。
 その間に、夏子は宇田川先生の隣へ向かう。

「守山時子(ときこ)さん、循環器科の外来患者です」

 夏子は素早く宇田川先生にそう告げ、人だかりに通路を開けた。
 するとその向こうから、職員がストレッチャーを運んでくる。

「詩音、大丈夫?」

 夏子が私に聞いてくる。
 祖母がストレッチャーにのせられるのを見ながら、私はこくりと頷いた。

 しっかりしなくては。私は、このベイショアERの看護師だ。

 現場に近づくと、宇田川先生と目が合った。

「守山、そこのおにぎりを頼む。俺のだ」

 彼の瞳は鋭く、力強い。まるで私に、こちらに戻ってこいと言っているようだ。

 すぐに祖母へと視線を戻した彼は、そのままストレッチャーを運び始める。
 私はおにぎりの入ったビニール袋を拾い上げ、宇田川先生に続いてERへと急いだ。

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