恋と結婚は別物です! 偽装結婚のはずなのに、強気なナースはフライトドクターの一途な愛に溶かされる
 病院の廊下は無機質だ。窓の外はすでに暗くなっており、天井のLED照明が廊下を余計に青白くしている。

 私は〝手術中〟のランプが灯る扉の前の長椅子に座り、祖母のお守りを握りしめていた。

 祖母はERに運ばれ検査の後、緊急手術となった。脳の病気らしい。
 処置は脳外科医の芦田(あしだ)先生が引き継ぎ、今はあの奥で施術中だ。

『大丈夫だ、今は家族のことだけを考えろ』

 宇田川先生はフライト待機室に戻る前、ナースステーションで私からおにぎりの袋を受け取りそう言った。
 そしてたまたま近くにいた先輩看護師に今日のフライトナースを私と代わるよう言い、横居さんにもその旨を伝えてくれた。

 横居さんからはその後、明日も休暇にしたと伝えられている。

 祖母のことで不安を抱えたまま仕事に挑まなければならない状況にならずに済んだのは、ありがたい。
 ERで働いているからこそ、祖母の患った病気の怖さを知っているのだ。

 手術開始から、どのくらいが経っただろう。〝手術中〟のランプがやっと消えて、私は手の力を緩めた。

 指の節々がかすかに痛む。どうやら、それほど強くお守りを握っていたらしい。

 手術室から出てきた芦田先生は、白髪交じりの眉尻をそっと優しく下げてくれる。
 手術は無事、終わったようだ。それで少し安堵したけれど、不安は消えなかった。

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