恋と結婚は別物です! 偽装結婚のはずなのに、強気なナースはフライトドクターの一途な愛に溶かされる
 急患だろうか。
 つい身構え、スマホを耳に押し当てる。しかし、聞こえてきたのは朗らか声だった。

『今ER落ち着いているから、回診終わったらお昼とってきて。鷹臣先生にも伝えてもらえる?』

 わかりました、とスマホを切る。

 お兄さんは先に医局に戻ったはずだ。
 彼の顔を思い浮かべると胸が騒いでしまったが、私はさっさと彼に伝えてからランチに向かおうと心に決め、医局へ向かった。

 医局の扉をノックし開く。中にいたのは、お兄さんひとりだった。

「あれ、詩音さんどうしたの?」

「お先にお昼を、ですって」

 それだけ伝え、さっさと医局を出ようとした。
 しかし、出ることはかなわなかった。

「ちょっと待って」

 お兄さんに腕を掴まれてしまったのだ。

「君に聞きたいことがあるんだ」

 ドクドクと鼓動が速まる。私はさっさと話を切り上げようと、彼を振り返らずに口を開いた。

「ERのことでしたら、私よりもベテランのナースが何人も――」

「そんなことじゃないって、わからない?」

 彼は私の腕を強く引く。それで体が回転し、彼と対峙しなくてはいけなくなった。

 つい顔を伏せるも、彼は私を下から覗く。そんな彼の瞳は、真っ黒に染まっていた。
 ぞわぞわと、冷たいものが背を伝う。

「君はどうして、龍臣と結婚したの?」

< 118 / 144 >

この作品をシェア

pagetop