恋と結婚は別物です! 偽装結婚のはずなのに、強気なナースはフライトドクターの一途な愛に溶かされる
 ついきょとんとしてしまう。
 すると、夏子は私の隣に腰掛けて、声を潜めて話し出した。

「私、鷹臣先生にあのこと――」

 しかし、彼女はそこで言葉を止めた。私が顔を伏せてしまったからだと思う。

「もしかして、もうなにか言われたの……?」

 心配そうに尋ねてくる夏子に、こくりと頷く。
 すると夏子はつぶやくように、だけど私の耳に届く声で言った。

「本当にごめん……。どういうわけか、鷹臣先生に不倫のことバレててさ。詩音のことを問い詰められて、本当のことを言わないと病院内にバラすって脅されて、それで……ごめん」

 申し訳なさそうに言う夏子を、私は責めることができなかった。
 夏子が彼のことを心から愛しているのは知っていたし、私もどこか彼女を応援する気持ちでいたからだ。

 お兄さんを侮れないと思う気持ちはあるけれど、彼女への侮蔑はない。
 彼女はずっと、私の一番の看護仲間だ。

 私は泣きそうに震える夏子の肩を、ぽんと叩いた。

「大丈夫。……全部、事実だもの」

 言いながら、私は自分の心の中で思った。
 私と龍臣さんの結婚は、互いの利害一致のためにした、愛のない偽装結婚だ。
 離婚したって、痛くも痒くもないはずだ……少なくとも、龍臣さんにとっては。

 だったら、私のすべきことはひとつだ。だけど――。

 夏子は再び小さな声で「ごめん」とつぶやきよろよろと席を立つ。
 私は伸びてしまったうどんをすすりながら、自分の気持ちと彼への思いの間で揺れていた。

< 122 / 144 >

この作品をシェア

pagetop