恋と結婚は別物です! 偽装結婚のはずなのに、強気なナースはフライトドクターの一途な愛に溶かされる
 コンクリート打ちっぱなしの店内は、間接照明がほのかに照らすのみで薄暗い。
 テーブル席も数席しかないこぢんまりとしたバーの中、お兄さんはカウンター席の一番奥に座っていた。

 店内に、他に客はいない。
 私と彼と、空気のように佇む年配のバーテンダーがいるだけだ。

 私の入店に気がつくと、彼は軽く右手を上げた。
 それから、私の手元のスーツケースを見て勝利の笑みを浮かべる。

「離婚する決心が、ついたんだね」

 私は彼に近づきながら「はい」と頷いた。

「これから、君はどうするの?」

「祖母のところに住むつもりです」

 彼の質問に答えた時、ちょうど彼の隣に着く。

「そう。隣、どうぞ」

 お兄さんは隣の席を指し示したけれど、私は座らなかった。長居するつもりはない。

 すると、彼は不快そうに顔を歪めた。
 その表情に鼓動がどくりと脈打ったが、それでも私は真剣な顔を彼に向け続けた。
 気を張っていないと、涙がこぼれてしまいそうだ。

「なに? 言いたいことがあるなら、さっさと言いなよ」

 こちらを見る冷たい瞳は、まるで私を挑発するよう。
 私は一度小さく深呼吸して、口を開いた。

「私と龍臣さんの結婚は、お兄さんのおっしゃる通り偽装でした」

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