恋と結婚は別物です! 偽装結婚のはずなのに、強気なナースはフライトドクターの一途な愛に溶かされる
「幸せになるんだよ」

 そのまま、ぽんぽんと撫でられる。
 まるで、母を亡くした後の幼い俺にしてくれたのと同じように。

 こんなこと、すっかり忘れていた。だが思い出すと、無性に胸がむず痒くなる。

「やめろ」

 ついそう言うと、兄さんはくすりと笑って俺たちの前から去っていった。

 不意に、腕の中がどっと重くなる。
 慌てて詩音を見ると、彼女は照れ笑いを浮かべていた。

「すみません、なんだか気が抜けちゃって」

 すると詩音は、背を丸め俺の腕に体重を預けながら、急にくすりと笑う。

「私、龍臣さんと離婚したくないのにって、ここのところずっと悩んでいたんです。でも、今振り返れば、あの時間は愛おしくて。おかげで龍臣さんの気持ちも知ることができましたし、幸せだなあって」

 ああ、なんてかわいいことを言うのだろう。
 今すぐにたっぷりと口づけて、俺のものにしてしまいたい。

 だけど、ここでそんなことをするわけにもいかない。
 俺は詩音を抱いているのと反対の手で彼女のスーツケースを握り、彼女にそっと告げた。

「帰ろう。俺たちの家へ」

 いつかのように彼女のスーツケースをトランクに詰み、彼女をクーペの助手席に乗せる。
 だが気持ちが以前と違うのは、彼女の思いを知ったからだ。

 いつものように仕事から帰ると、リビングに離婚届が置いてあった。
 それに青ざめ、慌てて詩音の居場所を突き止めた。

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