恋と結婚は別物です! 偽装結婚のはずなのに、強気なナースはフライトドクターの一途な愛に溶かされる
 宇田川先生は焼き色がついたそれを皿に移し、私の前に置いた。
 どうやら彼は、私が看護師としてスタミナ切れになるのを心配しているようだ。

 彼の言うことはもっともだ。いつまでもめそめそしているわけにはいかない。

 明日は休みにしてもらったが、その後は仕事だ。それに明日の休みだって、祖母の入院準備で忙しいに違いない。

「ありがとうございます、いただきます」

 手を合わせ、お肉に箸をのばした。口に含み、咀嚼する。

 味はよくわからない。だけどそれをごくりと飲み込んだ時、思わず涙がこみ上げた。

 どうしてだろう、とても優しい味がする。
 食事をするという行為を通して無理やり日常に戻ったことで、張り詰めていた気持ちが解けてしまったのかもしれない。

 こみ上げたものを引っ込めようと、私は手元のお茶を飲んだ。

 気持ちを落ち着けてから、宇田川先生に視線を向ける。
 彼は淡々と肉を焼き続け、時折口に運んでいた。

 これは、優しさじゃない。彼はきっと、私が仕事に穴を開けたら困るから、こうして食事に連れてきてくれただけだ。
 それでも、私は彼に救われた気がした。

「ありがとうございました」

 食事を終え、私は彼に頭を下げた。

「情けないですが、ひとりではなにも口にできなかったと思うので。美味しかったです」

< 17 / 144 >

この作品をシェア

pagetop