恋と結婚は別物です! 偽装結婚のはずなのに、強気なナースはフライトドクターの一途な愛に溶かされる
 彼はスウェット姿で、その髪は少しぼさっとしている。

 職場で見る姿とはまったく違うリラックスした様子に、ついくすりと笑みがもれてしまった。
 いつも怖い雰囲気を醸している彼が、家ではこんな姿を見せるなんて。

 私の気配を感じたのか、彼がこちらを振り向く。私は慌てて顔を元に戻し、淡々と挨拶をした。

「おはようございます」

「詩音も飲むか?」

 彼は「おはよう」の代わりにそう言って、自身のカップを掲げる。

「大丈夫です、自分でやりますから。ありがとうございます」

 私は一度部屋に戻り、カップなど食器を持ってキッチンへ向かった。
 だが私がそこに着くと、すでに中に彼がいる。

「ほら、カップ」

 彼はそう言って、こちらに手を差し出す。
 ぶっきらぼうな言い方だが、なんだか夫婦みたいだと思ってしまった。

 ……私たちは、本当に〝夫婦〟なのだけれど。

「ありがとうございます」

 カップを彼に手渡すとすぐ、頭がシャキッとするような香りがこちらに漂ってきた。

「どうぞ」

 差し出されたカップを受け取ると、彼は再びキッチンの奥へと戻る。それから、すぐに炊飯器の蓋を開けた。

「え……?」

 もくもくと立ち上る蒸気とともに、炊き立てのお米の香りが漂ってくる。
 すると彼は、迷いなく昨日買ったばかりの夫婦茶碗両方にお米をよそった。

< 66 / 144 >

この作品をシェア

pagetop