恋と結婚は別物です! 偽装結婚のはずなのに、強気なナースはフライトドクターの一途な愛に溶かされる
 体は百八十度回転し、彼の分厚い胸板に私の体が倒れ込む。

 あ、と思ったのも束の間、彼の両腕が私を抱きしめるように包み込んだ。

 片方の手は腰に、片方の手は後頭部に。
 おかげで私の視界には、彼のシャツしか映らない。

 突然の出来事に、思考が追いつかない。
 呆然としてしまい、なにもすることができない。

 戸惑っていると、龍臣さんの声が降ってきた。

「強がるなよ。そんな笑顔は、つくり物だとすぐにわかる」

 祖母の前で、私が笑顔でいられるように。
 そのためだとわかっているのに、龍臣さんの声につい涙腺が緩んでしまいそうになる。

「やめてください。泣いちゃうじゃないですか」

 強い声で言い返そうと思ったのに、徐々に涙声になってしまう。

「泣いたってかまわない。今なら、俺と詩音しかここにいない」

 本当にやめて。

 そう思った時には、もうダメだった。
 目尻から生ぬるいものがあふれ出し、止まらなくなってしまったのだ。

「ごめん、なさい……。こん、な……」

 すると、彼の腕の力が強くなる。
 それで、もっと涙があふれてしまう。泣き止みたいのに、涙が全然止まらない。

 誰も通らない、面会時間にはまだ早い個室病棟の静かな廊下。
 龍臣さんは私の涙が止まるまで、そっと私の背を優しく撫で続けてくれた。

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