恋と結婚は別物です! 偽装結婚のはずなのに、強気なナースはフライトドクターの一途な愛に溶かされる
 つい目を見開く。すると彼は笑みを浮かべて右手を軽く上げ、悠然とこちらにやってきた。

「ご無沙汰しております、お兄さん」

 私は慌てて立ち上がり、彼にぺこりと頭を下げる。
 平静を装ったが、心臓は警鐘を鳴らすように乱打していた。

『兄さんは、勘が鋭い。きっと、怪しまれていると思う』

 龍臣さんの実家に挨拶に行った帰り道、彼に言われたことを思い出したのだ。

 彼の実家の去り際の、お兄さんの黒い瞳も脳裏に蘇る。
 私は頭を下げたまま、動けなくなってしまった。あの瞳で顔を覗かれるのは、怖い。

「奇遇だね。今日はここの院長に用事があったんだ。君は? 仕事終わり?」

 尋ねられて、顔を上げないわけにいかない。私は引きつった笑顔を浮かべ、口を開いた。

「いえ、今日は祖母のお見舞いに来たんです。龍臣さんは、今医局に寄っていて」

「そう。仲がいいんだね」

 にこりと優しい笑みを向けられ、心がぞわりと騒いだ。この人のこの顔は、やっぱり苦手だ。

 私は心を無にしてこくりと頷く。
 すると、お兄さんは急にひらめいたというように、眉を跳ね上げた。

「そうだ、連絡先を交換しない?」

「え……?」

 ついどくりと胸が跳ね、背筋が粟立ってしまった。
 だがそんな私に気づかないのか、彼は口滑らかに続ける。

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