恋と結婚は別物です! 偽装結婚のはずなのに、強気なナースはフライトドクターの一途な愛に溶かされる
「兄さん、ここでなにをしている」

「なにって、たまたま会って話をしていただけだよ」

 お兄さんは飄々とそう言うと、再び私に微笑んだ。

「また会うかもね、詩音さん」

 お兄さんはそのまま私たちに背を向け、手を振ながら階段を下りていってしまう。

「大丈夫か? なにかされていないか?」

「いえ、大丈夫です」

 龍臣さんは私の言葉に安堵したのか、私の手を握る力を幾分弱めた。

 彼が心配していたのは、私たちの関係がお兄さんにバレていないかどうか。
 そうだとわかっているのに、私は彼の行動にちょっとだけ嬉しくなってしまった。

 お兄さんから、私を守ってくれたような気がしたから。

「待たせてすまなかった。帰ろうか」

 彼は私の手を繋いだまま、優しい顔をする。

「はい」

 私はそう答えながら、つい彼の手を握り返してしまった。

 すると、龍臣さんの目が見開かれる。それで、私も思わず目を見開いてしまった。

 この結婚に愛はないってわかっているのに、私、どうして……。

 とくとくと、胸が高鳴る。
 だけどそれは、先ほどお兄さんに感じたものとはまるで違う。
 嫌なものであるどころか、もっと感じたいと思ってしまう。

 もしかして、私、彼に惹かれてる……?

「ごめんなさい、つい」

 私は慌てて、手の力を弱めた。

 この気持ちに気づいてはいけない。だって、この結婚に愛はない。

 利害が一致しただけの、偽装の関係の私たち。
 彼に恋をしたって、虚しいだけだ。

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