恋と結婚は別物です! 偽装結婚のはずなのに、強気なナースはフライトドクターの一途な愛に溶かされる
 え、私……っ!?

 顔を上げると、お兄さんが優しく微笑んで言った。

「よろしくお願いしますね、詩音さん」

 主任の指名を断れるわけがない。私はER内を、お兄さんに案内して回った。
 渡り廊下を通って、静和大学附属病院本棟にある私たちもよく使う部分も案内してゆく。

 彼は終始にこにこしていて、なんだか居心地が悪い。

 ほとんどの案内を済ませると、最後にベイショアERの階段を二階から上に登った。

「龍臣は、今日はお休み?」

「いえ、フライト当番なので、今から会えるかと」

 お兄さんの問いにそう答えると、彼は「ふうん」と楽しそうに笑った。
 なんだかその笑みにも、胸がぞわりと震えてしまう。

 私はそれを気にしないようにして歩き、やがてフライト待機室の扉を開けた。

「お、噂の新婚さん」

 そう声を掛けてきたのは、運行管理者の丸井さん。四十代半ばの、癒し系のおじさんだ。
 彼がいるだけで、フライト待機室の空気が和む。しかし、ひとたび出動指令が入ると、彼は各所への連絡を的確にこなしてくれる。
 とても頼りになる、フライトチームの地上要員である。

 彼に会うのは久しぶりだ。祖母が倒れてからずっと、私はフライトナースを外してもらっている。

「ご無沙汰しております」

 ぺこりと頭を下げ、お兄さんを彼に紹介する。

「宇田川先生は今、ちょうどフライト中だよ」

 丸井さんは彼が宇田川病院の跡取りだと知っても態度を変えず、朗らかな顔で教えてくれた。

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