恋と結婚は別物です! 偽装結婚のはずなのに、強気なナースはフライトドクターの一途な愛に溶かされる
 それでまた、鼓動がどくりと乱れてしまう。
 私は動揺を隠し、努めて冷静に微笑み返した。

「これから、どうぞよろしくお願いします」

 するとお兄さんは、今度は白い歯を見せる。

「決して、龍臣と君の邪魔をしに来たわけじゃないからね」

 彼がそう言った時、エレベーターがちょうど一階に到着した。
 扉が開くと、そこではナースたちがばたついている。どうやら、急患のようだ。

 お兄さんはそれを察したらしく、すぐに患者のほうへ向かう。
 どうやら〝勉強しにきた〟というのは嘘ではなかったらしい。

 こんなことでいちいち動揺していてはダメ。目の前の患者を救うのが、私の使命だ。

 私は自分にそう言い聞かせ、自分にできることを探し処置に患者家族の対応にと動いた。

 ERはその後、稼働しっぱなしだった。
 ドクターの補助をしたり、病室からのナースコールに応えたり。忙しく走り回っていると、あっという間に時間が過ぎていく。

 お兄さんは人当たりがよいからか、ERのドクターたちとすぐに打ち解けていた。
 忙しいとピリピリしがちなERだが、彼の物腰柔らかい態度がクッションになっているのか、今日はなんだか穏やかだ。

 それでも、私はこの状況に違和感を覚えずにはいられなかった。

< 89 / 144 >

この作品をシェア

pagetop