恋と結婚は別物です! 偽装結婚のはずなのに、強気なナースはフライトドクターの一途な愛に溶かされる
『助けた患者が金を払えなかったら? そんなやつを助けて、なんの価値がある? 救急医療なんて、病院を潰すだけだ』

 以前、龍臣さんの実家に伺った時に、お父さんに言われた言葉だ。
 彼と信念を同じくしていそうなお兄さんが――あの宇田川病院の跡取りが、どうしてここにやってきたのだろう。

 終業時間を過ぎると、今日もいつものように龍臣さんがナースステーションにやってきた。

「詩音、帰るぞ」

 入力作業をしていた私は、その声にパソコンから顔を上げて振り向く。
 その時、ナースステーション内が少しざわついた。私の心もざわついてしまった。

 龍臣さんの隣に、お兄さんがいたのだ。

 お兄さんは目が合うと、にこっと微笑む。
 私はぞわぞわとせり上がってくるなにかを喉の奥へ押し込め、ぺこりと彼に会釈した。
 それから、急いで入力を終わらせパソコンをシャットダウンする。

「お疲れさまでした」

 私は近くにいたナースたちに頭を下げ、急いでナースステーションから出た。
 色めきだつこの空気から、早く解放されたい。

 龍臣さんは、いつものように私の腰を抱く。
 胸が高鳴ってしまったけれど、その鼓動はすぐに嫌なリズムに代わってしまった。

「仲がいいんだね」

 お兄さんがそう言って、くすりと笑ったのだ。
 彼の視線は、私の腰に回った龍臣さんの腕に向いていた。

 普通なら嫌味に聞こえないだろうけれど、私は彼の言葉に棘を感じてしまう。

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