グルゥとリル、もりのはずれで

火のそばの朝

朝の森は、うすいくもをそのまま地面の近くまでおろしてきたようで、木々のあいだがしろく、やわらかく見えていました。小屋の前に積んである木の枝もしっとりとしていて、さわると指にひやりとしたものが残ります。森で暮らし、町ともゆるやかにつながるふたりの毎日らしい空気のなかで、この日も大きなことは起こらず、小さな不便だけが朝のまんなかに置かれていました。

グルゥは、いつものように火のしたくをしていました。細い枝をえらび、かわいた葉をあつめ、石をそっと寄せます。けれど、火はなかなか育ちません。赤くなりかけて、すぐに消え、また小さく息をひそめてしまいます。

そのようすを、リルは戸口のそばで見ていました。まだ少し眠たげな目で、ひざに布をかけたまま、風の流れを見ているようでした。ふわ、とひとつあくびをこらえて、それから小さく首をかしげます。

「つきにくいね」

グルゥは、うなずくだけでした。返事はそれだけで、また手を動かします。太い指で、ぬれ気をふくんだ枝をよりわけ、火にむくものだけを静かに選んでいました。

小屋の屋根から落ちたしずくが、ぽつ、ぽつ、と土にしみていきます。その音は急がず、せかさず、朝をゆっくり進めているみたいでした。

リルは立ちあがって、水くみの小さな袋を持ち、戸口から一歩だけ外へ出ました。冷たい空気にほおをなでられて、少し目を細めます。それから、小屋の横に干してあった布を見つけました。昨日の夕方に洗ったもので、端のほうだけ、朝の風にゆれていました。

リルはその布を両手でもって、グルゥのそばまで歩いてきます。なにも言わずに差し出すと、グルゥはそれを見て、また短くうなずきました。

火のそばをおおうように布を張ると、風のいたずらが少しやわらぎました。グルゥは身をかがめ、今度は息を入れすぎないように、ほんの少しだけ火に近づきます。消えかけていた赤が、こんどは小さな光を残しました。まだたよりないけれど、さっきよりも、そこにいる気配があります。

リルはその赤を見て、少しだけ笑いました。

「いた」

その声は、森の朝においていくにはちょうどいい大きさでした。

グルゥは細い枝を一本、また一本と足していきます。急がず、欲ばらず、火がいやがらないくらいずつ。やがて、かすかな音がしました。ぱち、と、木の皮がひらくような音でした。

小屋の中に、すこしずつあたたかさが戻ってきます。湿った空気の匂いに、木の煙の匂いがまざりました。朝の白さのなかに、うすい金色がにじんでいくようでした。

火が落ちつくまでのあいだ、リルはパンをひとつ持ってきて、半分にちぎりました。ひとつを自分の手に、もうひとつをグルゥのそばの木の皿に置きます。グルゥは火から目をはなさないまま、あとで食べるつもりなのか、その皿を少しだけ手前へ寄せました。

火はようやく、ちいさな背をのばしました。つよくはないけれど、ちゃんと燃える火でした。やかんの水をかけると、ほどなくして、ふちが細かく鳴りはじめます。

リルは火の前にしゃがみこみ、両手をかざしました。指先があたたまると、さっきまで眠たげだった顔が、すこしだけほどけます。グルゥはそのようすを横目で見て、そばの薪をひとつ、火の届きやすいところへずらしました。

外では、風が木の上のほうをゆらしていました。けれど小屋の中には、もうあわてるものはありません。火がつきにくい日は、たしかに少しだけ手間がかかります。けれどそのぶん、枝の手ざわりや、布のゆれかたや、火が生まれるまえの静けさまで、いつもよりよく見えるのでした。

やがて湯気の立った湯のみを、グルゥがひとつリルの前に置きます。リルは両手で受け取り、そのぬくもりに目を細めました。

「ね、今日は、ゆっくりだね」

グルゥは火を見ながら、低くひとことだけ返します。

「それでいい」

その声は、燃えはじめた火にすこし似ていました。大きくはないのに、ちゃんとあたたかいものでした。
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