グルゥとリル、もりのはずれで

門の前の朝

町へつづく道のはしに、小さな門がありました。
木でできた門で、雨や風にふれられて、角はまるく、色はうすくなっていました。朝の光をうけると、そこだけやさしく白く見えて、まるで古いパンの皮みたいに、ふわりとやわらかな色になります。

グルゥとリルは、その門の前まで来ていました。

森のほうから来た土の道は、門の下で少しだけ平らになっていて、何人もの足が通ってきたことを、静かに残していました。町の中からは、遠くで水をくむ音や、店の戸をあける音が、うすい布を一枚はさんだみたいに聞こえてきます。

リルは門の手前で、すっと足を止めました。
眠たげな目で、門の上の木を見あげています。かたい葉のあいだから、朝のひかりがこぼれて、リルの髪の先にのっていました。

グルゥも止まりました。
となりで何も言わず、背負っていた袋の位置をなおします。袋の口からは、町に持っていく布が少しだけ見えていました。森でとれた木の実を包んだものと、焼いたパンがひとつ。どちらも、ゆれないようにきちんと入れてあります。

リルは門の柱に、そっと手をのせました。
ひんやりしていたので、少しだけ目を細めます。それから、門の向こうを見て、またこちらの森を見ました。どちらもいつもの場所で、どちらにも朝の気配がありました。

「……きょう、門、あかるいね」

小さな声でした。

グルゥは門を見あげ、それからうなずきました。
返事はそれだけでしたが、リルには十分だったようで、指先で木のすじをなぞっています。長いあいだ立っていた木のぬくもりが、まだ奥のほうに残っているようでした。

風がひとつ、門をくぐっていきました。
森のにおいを少し連れて、町のほうへ流れていきます。かわりに町のほうからは、焼けた粉の香りや、あたためた石みたいな道のにおいが、こちらへ来ました。

リルはそのまま、鼻先で小さく息をしました。
どちらのにおいも知っている、という顔でした。

グルゥは腰をかがめ、リルの肩にかかっていた細い枝を取ってやりました。森の道でついたのでしょう。枝はくるりと曲がっていて、まだ青さがありました。グルゥはそれを道ばたへ置き、かわりにリルの手の中へ、布に包んだ小さなかけらをのせました。朝のうちに焼いたパンの端でした。

リルは手のひらを見て、少し笑いました。
「たべるの、ここでもいいのに」

グルゥは短く息をついて、門のわきの石を見ました。
腰をおろすのにちょうどよい大きさです。先に自分がそこへ座り、袋を足もとに置くと、となりをあけました。

リルも、ことんと座ります。

門の下を、町の人がひとり通っていきました。
こちらを見て、やわらかく頭を下げます。グルゥも小さく返しました。リルはパンを持ったまま、少しだけ手をあげました。それだけで、朝のあいさつは足りていました。

ふたりはすぐには門をくぐりませんでした。
急ぐことがない朝は、道の途中にも小さな居場所ができます。門の前は、森でも町でもないようでいて、ちゃんとふたつにつながっていました。風も光も、そこでは半分ずつみたいでした。

リルはパンをちぎり、ひとかけを口に入れました。
やわらかな顔で、ゆっくりかみます。もうひとかけは、言わずにグルゥへさし出しました。グルゥは受け取り、同じように静かに食べました。

そのあいだ、門の影は少しずつ短くなっていきました。
木の柱にふれていたリルの指先も、いつのまにか光の中へ出ています。リルはそれを見て、手をひらきました。白い手のひらに朝の明るさがのり、小鳥の羽みたいに軽く見えます。

「もう、いける」

そう言って立ちあがる声は、まだ少しだけねむそうでした。

グルゥは先に立ち、袋を持ちあげます。
それから門をくぐる前に、リルの歩幅に合わせて一歩ぶん待ちました。リルがとなりに来ると、そのままふたりで同じ幅だけ進みます。

門は何も言わず、ふたりを見送っていました。
うしろには森の朝、前には町の朝。
そのあいだを通るふたりの足音だけが、こつ、こつと、木のぬくもりに重なっていました。
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