妹に陥れられ追放された令嬢ですが、氷の王弟に息子ともども溺愛されています
「王族なのに絵姿がないないなんて、おかしくないですか?」
「ええ。私もそう思って、マティアス王太子殿下に尋ねたのだけれど、理由は教えてもらえなかったわ。個人的なことに関しては、とにかく謎が多い方なのよ」
絵姿だけでなく、カイエン王弟については、辺境伯を継いで以降の話しか耳にしない。王子時代の様子がまったく伝わってこないのだ。
だからメレディスは、カイエン王弟にはなにか特別な事情があって、あえて隠しているのだとるのだろうと考えている。
「でもカイエン王弟殿下についての噂なら耳にしたことがありますよ。戦場では比類なき強さと容赦の無さで、敵ですら逃げ出すのだとか。陰ではで鬼神と呼ばれるほど冷酷で恐ろしい方だとか。王族でありながらまだ婚約者すらいないのは、あまりに冷たくて女性が逃げてしまうそうですよ冷酷無情な氷の王弟と呼ばれているそうです」
「氷の王弟?そんな噂があるの?」
メレディスは眉をひそめた。
「はい。だから王族なのに婚約者すらいないのだと。侍女仲間から聞きました」
貴族の令嬢は、高貴で優美な貴公子を好むものだ。冷酷無情で恐ろしい相手との結婚は避けたがるだろう。
「殿下はずっと王都に戻ってきていなくて、王太子殿下の婚約者だった私ですらお会いしたことがないのよ。絵姿すらない謎の王族なのに、なぜそんな噂が流れるの?」
「それは……あ、もしかしたら、辺境伯領まで行って王弟殿下に会った人がいるんですよ。その人が戻ってきて誰かに話したことで噂が広がったのでは?」
「結局、確実性が薄い噂なのね」
「でも侍女の噂話は馬鹿にできません。噂話として無視するのは危険です。カイエン王弟殿下には気をつけた方がいいかもしれません」
たしかに、噂の中にいくつかの真実が隠されていることはある。
実際、彼が戦場で華々しい成果を上げたのは事実だ。冷酷無情だとしても不思議はない。
「わかった。心に留めておくわ」
メレディスは頷いた。高位貴族に使える侍女はあらゆる情報に接する機会が多く、噂といえでもいえども馬鹿にはできないのだ。
(カイエン王弟殿下か……)
リストン村で暮らすようになったら、顔を合わす機会があるだろうか。
特別優秀で、謎に満ちた高貴な人。
恐ろしい人なのだとしても、叶うなら一度気になってしまう会ってみたい。
メレディスは、どこまでも続く荒野に目を向けながら、見知らぬ王弟の姿を思い描いた。