妹に陥れられ追放された令嬢ですが、氷の王弟に息子ともども溺愛されています


「……こっちだ」

 馬車の外は酷い有り様だった。あちこちに血痕が飛んでいて戦闘の激しさが見て取れる。数人の騎士が、捕らえた野盗を縄で縛っていた。

 彼らはこちらに興味深そうな視線を送る一方で、メレディスを案内している男性に対しては敬意を払っている。

 襲撃から救ったうえに、細やかな気遣いをくれる彼の後ろ姿を、メレディスはそっと見つめた。

 彼の外見と周囲の反応から、やはり一般の騎士とは思えない。

(彼はどんな立場なのかしら)

 メレディスの疑問を察したかのようなタイミングで、カイエンが口を開く。

「そういえばまだ名乗っていなかったな。カイエン・キースリングだ。最北のキースリング領地を任されている者だ」
「……カイエン王弟殿下?」

 驚きのあまりメレディスは高い声を上げてしまった。もしここが王太子妃教育の場だったら、たちまち叱責されていただろう。

 けれど、取り繕うこともできないくらい驚いた。

(まさか、冷酷無情な氷の王弟とまで言われている殿下が、自ら街道の治安維持に勤しんでいるなんて)

 野盗を待ち伏せしたうえに、激しい戦闘にも参加する。メレディスの常識からは考えられないことだった。

 一方で、納得もしていた。彼の醸し出す威厳と気高さは間違いなく王族のものだ。

 メレディスは慌てて、その場で腰を折り礼をした。

「王弟殿下とは存じ上げず、ご無礼をいたしました」

 レオナもメレディスに倣って深々と頭を下げる。

「そんなに気を使わなくていい。それに今は辺境伯だ……とにかく頭を上げてくれ」

 カイエンに急かされて顔を上げる。すると彼と視線が重なり、メレディスの胸中は騒めいた。

 彼の澄んだ青い瞳を、どこかで見たことがあるような気がした。

(そんなはずがないわよね。王弟殿下とお会いするのは今日が初めてなのだし)

 きっと他の誰かと混同しているのだ。
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