妹に陥れられ追放された令嬢ですが、氷の王弟に息子ともども溺愛されています

 その日、カイエンは本当に死にたくなった。
 
 死への恐怖よりも、現実が恐ろしい。
 
 絶望が勝った、瞬間だった。

 虐めから解放されても立ち上がれずに、このまま血が流れ果ててしまえばいいと、無気力にそう感じていた。

 しかしそのとき、小さな女の子が目の前に現れた。

 少女は傷ついたカイエンを見て、大きく目を見開いた。

『あなた怪我してるの?』

 彼女はカイエンよりも少し年下。ピンクの薔薇を思わせる愛らしいドレスを身に付けていた。手入れされた黄金の髪に翡翠を思させる瞳。ひと目見て大切にされている貴族の令嬢だと分かる。

 なぜひとりでこんな人気のないところにいるのだろう。

 気になったが、この小さな女の子も、意地悪な貴族令息と同じかもしれないと思うと、視界に入れたくなくなった。

 カイエンは彼女から目を逸らして、無視をした。

『聞こえないの? もしかして耳を怪我したのかな?』

 冷たくしても少女は立ち去らず、カイエンの前にしゃがみ込んだ。

『私、メレディス。お父様とお母様からはメレって呼ばれてるの。お兄さんは?』

 メレディスと名乗った少女は人見知りをしない性格のようで、カイエンに顔を寄せて話しかけてくる。

『あっ、血が出てるよ』

 メレディスが小さな手をカイエンの膝に伸ばした。

『触るな!』

 咄嗟に足を引っ込めながら声を荒らげると、メレディスはきょとんと目を丸くする。

『どうしたの? 痛くしないよ?』

 彼女は他人に拒絶された経験がないのだろう。瞬きをしたあと、懲りずに傷を見ようとする。

(医者の真似事がしたいのか?)

『……ドレスが汚れる』

 もし、王妃に知られたら激しく叱責される。弁償しろと言われても、なにも持っていないカイエンには不可能だ。
 これ以上状況が悪化するのは耐えられなかった。

 けれどメレディスは、にこりと微笑んだ。
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