妹に陥れられ追放された令嬢ですが、氷の王弟に息子ともども溺愛されています
『君がお祝いを?』
『うん。だからどこにいるのか教えて?』
『……知らない』
答える声が震えてしまった。
『うーん。それじゃあここからお祝いしよう。第二王子様、お誕生日おめでとうございます。幸せになりますように』
メレディスは目を閉じ両手を組み澄んだ声を出す。
祝福と祈りを混同しているようだが、真剣な様子が伝わってくる。
彼女は会ったこともない相手の幸せを、真摯に願っているのだ。
カイエンの胸が騒めいた。
(はじめて、おめでとうって言われた)
殆どの人にとっては当たり前に受け取る祝福かもしれない。けれどカイエンにとっては胸に響き、忘れられない一瞬になった。
『……ありがとう』
膝に顔を埋めて、掠れた声で言う。
『カイじゃなくて王子様に言ったんだよ?』
『うん、わかってるけどありがとう』
その後もメレディスは立ち去らず、カイエン相手におしゃべりをした。
彼女はカロッサ公爵の娘で、父親に連れられて王宮にやって来たそうだ。
メレディスは両親に愛されて育ったのだろう。天真爛漫でこの世の不幸などなにひとつ知らないようだ。
カイエンとはあまりに対照的だった。けれど妬む気持ちは湧かなかった。
カイエンは心を楽にしてくれた彼女に、深く感謝していた。何年ぶりかに笑うことができたのだから。
その後も辛い日々が続いたが、カイエンには楽しみができた。メレディスと会うことだ。
彼女はときどき父親と共に王宮にやって来る。薔薇園を気に入っていることを知っているので、カイエンは時間が許す限り薔薇園で過ごして彼女の訪れを待った。
『今日なクッキーをもってきたの。カイも食べてね』
『うん……おいしい。初めて食べるよ』
『初めてなの? それなら全部あげる!』
『ありがとう。でもメレと半分に分けたい』
誰かと何かを分け合う行為は、自分にも親しい人がいると実感する、カイエンにとって貴重で幸せなことだった。
メレディスに会っておしゃべりができると、喜びを感じた。彼女を遠目に姿を見るだけでうれしくなった。
メレディスは、いつもぼろぼろの服を身に付けているカイエンを、使用人の息子だと誤解していたので、いつか本当に身分を打ち明けられる日を待ち望んでいた。