妹に陥れられ追放された令嬢ですが、氷の王弟に息子ともども溺愛されています
翌々日。ベルトが調査書を手に執務室を訪れた。
「カロッサ公女の調査を終えました」
カイエンは書類から顔を上げた。
「報告しろ」
ベルトはまるでこれから叱責を受けるのが分かっているかのように、緊張を漲らせながら口を開く。
「王都に潜入している手の者の報告によれば、公女は数カ月前に重い病を患い、内々で王家との婚約を解消しました。その後自宅で静養していましたが回復が見られないため、療養の為に地方への移住を決めたようです」
「なんの病だ?」
カイエンは鋭い眼光をベルトに向けた。
やはり自分の勘は間違っていなかった。彼女は体を壊していた!
「公爵家で機密とされていたため、病名までは判明しませんでした。しかし今朝、カロッサ公女の侍女が医師の手配をしていたため、密かに我々の配下の医師とすり替えることができました。先ほど診療を終えて、今別室で待機しております」
「今すぐ連れてこい」
カイエンは即座に指示を出した。
しばらくすると、医師のローブを纏った三十代半ばの女性が、ベルトに連れられてやって来た。
黒髪を一つにまとめ銀縁の眼鏡をかけた彼女は、キースリング辺境伯家お抱え医師のひとりで、カイエンの治療を受け持ったことはないが見覚えはあった。
彼女がカイエンの前で立ち止まる。
「ダリエと申します。ご指示によりカロッサ公女の診療をして参りました」
カイエンは頷いた。
「彼女はどのような病に罹っているんだ?」
本来は他人の病状を知ることはできない。しかしダリエはキースリング辺境伯家の忠実な臣下であるため、躊躇いなく口を開く。
「まだ最終的な判断は下せませんが、異形症の可能性が高いです」
カイエンは鈍器で頭を殴られたような衝撃を受けて、息をのんだ。
――異形症! 体が石のように変化し動かなくなる不治の病だ。滅多に見られない病だが、かつてカイエンの戦友が同じ病に罹り亡くなったので、ある程度の知識があった。
一度罹ると有効な回復手段がなく、緩やかに体が衰えていくのを待つしかない。
全員が死に至る訳ではないが、体が動かなくなるのだから、不自由な暮らしを強いられることになる。
(だからメレディスは婚約破棄されたのか!)
たしかにそのような病に罹った娘を、王太子の妃として迎える訳にはいかないだろう。
王家の判断は間違っていない。それでもカイエンの胸の中は、抑えきれない怒りで荒れ狂っていた。