妹に陥れられ追放された令嬢ですが、氷の王弟に息子ともども溺愛されています
カイエンは隣室で待ってくれいていた。
「終わったか?」
部屋を出たメレディスに気づくと、すぐに近づいてくる。
「はい。あのカイエン様、少しお話をさせていただいても構いませんか?」
「もちろんだ」
メレディスはカイエンと共に温室に向かい人払いをした。本来なら未婚の令嬢が異性とふたりきりになるのは良くないが、レオナもオスカーもカイエンに深く感謝しているため、何も言わなかった。
冬でも温かな温室をゆっくり歩きながら、メレディスは切りだ出した。
「カイエン様、心からお礼を申し上げます。あなたのおかげでこらからこれからも生きることができます。真実を突き止めて私を救って下さり本当にありがとうございました」
「頭を下げなくていい。君を助けるのは俺が望んでいることだから」
「……どうしてそこまで私を気遣ってくださるのですか?」
メレディスは以前からの疑問を口にした。
カイエンの、偏愛とも言えるほどの、贔屓と気遣い。どう考えてもただ面倒見がいいだけとは思えない。
「もしかしてお父様とカイエン様の間には、特別な何か関わりがあるのでしょうか」
昔父がカイエンを助けたことがあるなどため、恩を感じているなど、深い恩義を感じているような事情がなければ考えられないことだ。
「カロッサ公爵とは直接的な関わりはない」
「ではどうして?」
メレディスはどうしても答えを知りたかった。
カイエンは珍しく少し躊躇ってから、切なそうに目を細める。
「メレディスは覚えていないようだが、俺たちは昔会ったことがある」
メレディスは息を飲のんだ。
「それはいつのことですか?」
どこか懐かしいと感じることは有あったけれど、王弟との関わりはいくら記憶を探っても出てこなかったのだ。
「俺たちは今から十年以上前。王宮の薔薇園で出会ったんだ」
「王宮……薔薇園」
その言葉が引き金になり、古い記憶が蘇る。
薔薇園にうずくまる小さな男の子。大きさがサイズが合わない着古した服に、ぼさぼさの頭。あちこち怪我をして、目に光がなく今にも消えてしまいそうだった。
「あのときの……」
「思い出したか?」
メレディスは呆然としながらも首を縦に振る。
「でもあの子は庭師の息子ではなかったの?」
考えが口から洩れる漏れると、カイエンは困ったような笑みを浮かべた。
「あの頃の俺は、そう思われても当然の惨めな暮らしをしていたな」
「たしか名前はカイって……」
「そう。母からはそう呼ばれていたんだ。メレディスがメレって呼ばれていたように」
優しい声と共に思い出が蘇る。
メレディスは父について王宮に行くのが嫌いだった。大人ばかりでつまらなかったし、同世代の貴族子息はどうも意地悪な感じがしてで気が合わなかったからだ。
当時のメレディスは今よりもずっと我儘で、父の目を盗んで城を散策するような活発的な子供だった。
カイエンに会ったのは、道に迷っていたときだった。
怪我をいたした彼があまりに気の毒で、覚えたばかりの手当をしたくなったのだ。
話しかけてもカイエンは素っ気なかったが、しつこく声をかけているうちにおしゃべりをするようになった。メレディスは彼と話すのが楽しかった。
その後何度か彼と会う機会があり仲良くなったが、ある日を境に父が王宮に連れて行ってくれなくなったためので、[Y55.1]カイエンとも会う機会がなくなった。り、
すっかり忘れてしまっていたのだ。
(でも、だからカイエンは優しく手助けをしてくれたのね)だ。
メレディスが昔の友人だと気づいたから。
それなのにメレディスは、言われるまで僅かも思い出すことができなかった。
「ごめんなさい、私少しも気づかなくて……カイエン様はいつ私だと気づいたのですか?」
「ひと一目見てすぐに分かった。馬車の扉を開けたときに君がいて、驚いたけどうれしかったんだ」
「あの混乱した状況場所で分かったんですか?」
「ああ。でもメレディス君が思い出せなかったのは仕方がない。君は俺より幼かったし、当時俺は自分の身分を隠していたから」
「カイエン様は私の身分を知っていたのですか?」
当時、自分はどう名乗ったのだろうか。記憶を探っても思い出せない。
「メレディス・カロッサと可愛い声で言っていた。俺は君と別れた後すぐに調べて、君がカロッサ公爵家の令嬢だと知ったんだ。だからすぐに思い出せた」
カイエンはどこかうれしそうに言う。
「どうしてすぐに教えてくれなかったんですか?」
「出来れば君に思い出してほしかった。俺にとってあのときの思い出は今でも大切なものだから」
「私にとっても楽しかった思い出です。あの男の子がカイエン様とは気づかなかったけれど、本当に忘れてはいなかったんです」
懸命に訴えると、カイエンはそれは幸せそうに微笑んだ。
「俺は君に感謝していて、もし君が困っていたら必ず助けると決めていたんだ。偶然でも街道で助けられてよかった。再会できてうれしかった」
「私もうれしいです。カイエン様といるとときどき懐かしい気持ちになったのは、本当に過去に会っていたからなんですね」
メレディスはカイエンに柔らかに微笑んだ。
実は幼馴染だと知った瞬間から、彼がより身近に感じるようになった。
幼い頃に感じた好意と親しみがそうさせるのかもしれない。
けれど、あの頃の純粋な気持ちとはまったく同じではない。
彼の整った男らしい顔を見つめると胸がときめき、直視できない恥ずかしさがこみ込み上げるのだ。
マティアス王太子には感じなかった気持ちに、メレディスは戸惑い目を伏せた。
「どうしたんだ?」
カイエンが怪訝そうな声を出す。
「いえ、なんでもありません」
「本当に? 俺はこれからも君を守りたいと思っている。不安があるなら全て打ち明けてほしいんだ」
心配するあまりかカイエンがメレディスの顔を覗き込もうとする。
「本当に大丈夫。なんだか少し恥ずかしくなっただけです」
メレディスは急ぎ弁解したが、言いたくない本音を零してしまった。
ますます慌てるメレディスを診て、カイエンは薬くすりと笑う。
「どうして恥ずかしいんだ?」
「それは……」
カイエンが素敵すぎて照れてしまったから。そんな正直な気持ちを言うのは恥ずかしすぎる。
黙り込むメレディスに、カイエンが訴える。
「メレディス。俺は初めて会ったときからずっと君だけが好きだ。マティアスと婚約したのを知り身を引いたが、こうして再会できた」
カイエンはメレディスのように照れることなく、堂々と気持ちを伝えてくる。
真摯な目で見つめられて、メレディスの顔は血が上ったように火照ってしまう。
「これからもメレディスのそば側に居たい。どんなことからも守り大切にする。必ず幸せにすると誓う……俺の妻になってくれないか?」
カイエンの告白に、メレディスは驚きのあまり体を硬直させた。
(私とカイエン様が結婚?)
メレディスは異形症と診断されたときから、生涯独身を覚悟した。
生きているだけで満足で、恋なんて考える余裕がなかった。
家族と婚約者に見捨てられた自分に、そんな幸せが訪れるとは思いもせず、幸せになることを放棄していた。けれど……。
「私はカロッサ公爵家に捨てられたも同然です。王太子殿下に婚約解消をさえたきずもので、怪しげな毒を飲んだことで健康にも不安がある……カイエン様の妻に相応しくありません」
彼ならもっと素晴らしい令嬢が相応しい。王族の姫を娶ってもおかしくないのだ。
誰が見てもつり合いが取れない。
彼の悪い噂が払拭され、真実が知れ渡ったら、結婚の申し込みが山のように舞い込むだろう。
しかしカイエンは、そんな事情はまるで気にならない様子だった。
「身分も地位も過去も関係ない。俺はメレディスが好きなんだ。君がいれば他にはなにもいらない」
カイエンはメレディスを見つめて視線を逸らさない。その強い決意を宿す眼差しに、メレディスは捕らえられて身動きすらできないでいた。
それでも心の奥から喜びがこみ込み上げる。
誰かに必要とされることは、もう二度とないと思っていた。
幼い頃の思い出を忘れず、ずっと想い続けてくれた。それだけで心が温かくなり愛しさが溢れるさがこみ込み上げる。
「うれしい……」
小さな呟きでもカイエンは聞き逃さなかった。
「メレディス、受け入れてくれるか?」
「……はい」
前途多難かもしれないけれど、カイエンの気持ちに応えたいと思った。
義務でも責任でもなく、ひとりの女性として彼のそば側にいたい。
カイエンは顔を輝かせてから、メレディスを抱きしめた。
逞しい腕に包まれて、メレディスの心臓は早鐘を打つ。
「メレディス……昔のようにメレと呼んでいいか?」
「はい、もちろん」
メレは親しい人が呼ぶ綽名だ。カイエンにもそう呼んで欲しい。
「俺のこともあの頃のようにカイと呼んでくれ」
「……カイ」
気恥しさを感じながらも呼びかける。
カイエンの腕の力が強くなり、息が苦しくなるほど抱きしめられる。
「メレ……愛してる。もう二度と離さない」
カイエンは抱擁を解きメレディスを見つめた。彼の美しい瞳と視線が重なりメレディスの胸はこれ以上ないほどに高鳴った。
惹かれ合うように唇を寄せて、そっと重ねる。
「ん……」
初めての口づけにメレディスの思考は真っ白になった。
カイエンの口づけはメレディスが立っていられないほど深くなり、すっかり体の力が抜けてしまうまで終わりなく続いた。
その夜、カイエンは城に帰らず薔薇邸に留まった。
泊まるのは、客室ではなくメレディスの寝室だ。で過ごし
「メレ、本当にいいのか?」
カイエンが、耳元で囁いた。
貴族令嬢は正式に結婚するまで、婚約者相手にも肌を見せないのが普通だ。
今、あまりに性急に関係が進むことで、メレディスのだろが怖がっていないか心配してくれているのだろう。
けれどメレディスに躊躇いはなかった。
カイエンが好きだ。彼と一緒になりたい。
王太子妃の婚約者となったときから、メレディスは自分の感情を抑えて生きてきた。
天真爛漫だった頃の自分を想い出せないほど、未来の王妃としてどうあるべきかと考え、立場に縛られていた。
それが当然だと思っていたけれど、不治の病を患ったと知ったとき、深い後悔を感じたのだ。
もっと自分を大切にすればよかったと。
だから今、カイエンが好きで彼に応えたいと願う自分の心に素直になりたい。
「カイ……今夜側にいてほしい」
その言葉を聞いた瞬間、カイエンがメレディスを強く抱きしめた。
温室で交わしたキスよりも、更に深く激しく唇を重ね合う。
「ん……」
呼吸すらままならないほどの情熱に晒されて、メレディスの思考はあやふやになっていく。
カイエンがメレディスを抱き上げて、寝台に運んだ。
そっと降ろされるとすぐに、カイエンが覆いかぶさってくる。
「メレ……こうして触れられる日がくるとは思わなかった……」
「カイ……私も、うれしい……」
追放されるようにこの地にきたとき、こんな幸せが訪れるとは思ってもいなかった。
カイエンがメレディスの頬を確かめるように、優しく触れる。
擽ったくて閉じた目に、そっとキスを落とされた。
額や頬や耳元に、カイエンが次々とキスを重ねていく。
メレディスの体は熱を持ち、呼吸が荒くなっていく。
「ん……」
小さく声を漏らすと、カイエンが「かわいい」と囁いた。
男らしい声と共に耳朶を甘く噛まれて、メレディスの鼓動がどくんと跳ねた。
カイエンが逞しい腕でメレディスを抱きしめる。
彼から感じる熱に翻弄されているうちに、気付けばドレスを脱がされていた。
むき出しの肌に冷たい空気を感じたがそれも一瞬で、すぐにカイエンの熱で体を溶かされていく。
メレディスにとって初めての経験だから、不安もある。
けれどカイエンはメレディスが怖いと思う間もないほど、甘やかすように優しく触れて、翻弄する。
カイエンの手がメレディスの胸を柔らかい胸を覆い形を変えると、メレディスはついに高い声を上げてしまった。
「あっ! いや……」
あまりに恥ずかしくて、どうしていいか分からなくて拒否してしまった。
「本当にいやなのか?」
するとカイエンが、切ない声で囁く。それだけでメレディスの胸は締め付けられた。「いやじゃない……カイが好き」
「メレ……愛してる!」
カイエンが感極まったように言い、メレディスを自らの胸の中に閉じ込めた。
「メレ、一生離さないから」
「はい……私をずっと側に置いてください」
それからはメレディスはカイエンに身を任せた。
彼の手と唇がメレディスの体を隈なく探り、溶かしていく。
何も考えられなくなったとき、カイエンの逞しいものが、メレディスの体を貫いた。
「ああっ!」
鋭い痛みにメレディスの背中がしなる。
「メレ、すまない。もう少しだけ我慢してくれ」
カイエンが動きを止めて、必死にメレディスの痛みを慰める。
「大丈夫……痛いけどカイとひとつになれて、うれしいから」
メレディスは涙に濡れた目でカイエンを見上げる。
苦しさの中でも、彼に抱かれていると思うと、心が満たされるのを感じた。
メレディスが落ち着いたのを見ると、カイエンはゆっくり動き始めた。やがて律動はベッドが軋むほど激しくなる。
「あっ! ああ…… 」
メレディスは、カイエンの背中に縋りって激しい律動に必死に耐える。
、夜が更けるまで愛を交わし合ったのだった。
翌朝、メレディスはカイエンの腕の中で目を覚ました。
「おはよう」
カイエンは先に起きていたようで、寝起きでぼんやりしているメレディスの頬に口づけをした。
「お、おはようございます」
「体は大丈夫か?」
「だ、大丈夫」
昨夜の行為を思い出すと、メレディスは恥ずかしくてカイエンを直視できない。
けれど、カイエンは少しも恥ずかしさを感じていない。それどころか上機嫌で、うっとりするよう優しい目でメレディスを見つめる。
「カイ……うれしいことがあったの?」
「ああ、メレディスを俺のものにできた」
「……そんなに喜んでくれるの?」
カイエンはメレディスをぎゅっと抱きしめた。
「俺が心から欲しいと願ったのはメレディスだけだ。マティアスと婚約したと知ったときは絶望した。壊してしまいたいと思ったが、幸せそうなメレディスを見たら去ることしかできなかった」
「私……王太子殿下の婚約者に選ばれて、確かに喜んだ。でもそれは自分の努力が認められたと思ったから。彼を愛していたわけじゃない。今感じている幸せとは違うの」
「……今の方が幸せか?」
メレディスは頷いた。
「ええ、今が一番幸せ」
カイエンの瞳に、喜びが広がる。
「メレ、これから、もっと幸せにする」
カイエンが、上半身を起こして、メレディスを組み敷く。
深い愛情を湛えた瞳がメレディスを捕らえ、甘く煌めいた。
メレディスが魅了されている間に唇が重なり、深いものに変わっていく。
爽やかな朝の光の中、ふたりは求め合ったのだった。