妹に陥れられ追放された令嬢ですが、氷の王弟に息子ともども溺愛されています
◇◇
薔薇邸を出たカイエンは、矢のように馬を飛ばして城に帰還した。
「閣下? 本日はお戻りにならない予定だったのでは?」
執務室の扉を勢いよく開けて入ってきたカイエンを見て、ひとり書類に向かっていたベルトが驚愕して顔を上げる。
彼が言った通り、カイエンは今日メレディスと過ごすつもりでいた。
多忙な中でようやくまとまった時間をつくることができたので、彼女の側に居たかったのだ。
「予定は変更だ。婚礼の儀を前倒しする」
カイエンが気合と共に宣言すると、ベルトは目を大きく見開いた。
信じられないといったような目をカイエンに向けている。
「閣下……しかし既に吉日を選び、大司教様にも都合をつけて頂いております」
カイエンは慎重に暦を調べて、大切な日に相応しく、気候も安定した日を選び出していた。
「メレディスが懐妊した」
「……え?」
ベルトは再び呆気にとられたように、動きを止める。やがて戸惑いの表情になった。口には出さないが、既に手を出していたのか?と言いたげだ。
「時間がない。雪が解けたらすぐに結婚だ」
彼女のお腹が膨らむ前に、式を挙げる必要がある。
「承知いたしました」
カイエンは姿勢を正し、恭しく頭を下げた。いろいろ思うところはあっても、長年カイエンに仕えているだけあって、順応するのが早い。
「温室の方はどうだ?」
カイエンは花が好きなメレディスのために、場内にも薔薇邸のような温室を作るように指示を出した。
実用的で殺風景だった辺境伯城の庭に、突然優美な温室を作ると知った騎士たちは驚愕していたが、ベルトを含めて己の主人に意見する猛者はいなかった。