妹に陥れられ追放された令嬢ですが、氷の王弟に息子ともども溺愛されています
六章 帰還
北部の長い冬が終わり、春が訪れた。
厚い雲の狭間から光が注ぐ中、メレディスとカイエンの婚礼の儀が執り行われた。
急に決まった結婚のため、招待客はキースリング領都内の貴族と高位騎士のみだった。
それでも、メレディスは幸せだった。
カイエンと臣下たちが心を尽くして用意してくれた式は素晴らしく、優しい祝福に溢れていたから。
神の前でメレディスと一生添い遂げると力強く誓ったカイエンは、言葉の通りメレディスを目に入れても居たくないほど大切にした。
「国王陛下からの召喚状が届いた」
一日の執務を終えて夫婦の寝室に戻ったカイエンが、浮かない顔で告げた。
「召喚状? どういうことですか?」
現国王はカイエンの実の兄だ。年齢がひと回り以上離れているうえに母親が違うことから、幼い頃はほとんど関わる機会がなかった。
今は親しい兄弟というより、主君と臣下といった関係だそうだ。
「長く王都に立ち寄っていなかったから、そろそろ顔を出せということだろう。メレディスも同行するようにとの命令だ」
「今までも、王都に呼ばれることがあったのですか?」
「ああ。でも正式な召喚状がくるのは初めてだ。今回は辺境伯領を出られないという言い訳は通用しそうにないな」
「分かりました。陛下に結婚のご挨拶をしなくてはいけませんね。遅かったくらいだわ。今は安定期なので移動しても問題ないでしょう。準備を進めますね」
カイエンとメレディスが結婚するとき、使者を立てて国王に許しを得ている。とはいえやはり直接挨拶に行くのが筋だろう。
とはいえ、あまり気が進まない。
メレディスは小さなため息を吐いた。
王都について考えると、忘れかけていた記憶が蘇る。
メレディスを排斥しようとする人々の冷たい視線。別れたときの妹の悪意に満ちた顔。
(なるべく王都には近寄りたくなかったけど、国王陛下のご命令なら従うしかないわ)
メレディスの不安を察したのか、カイエンが慰めるように肩を抱いた。
「何も起きないように十分用意をする。俺が守るから心配するな」
「ええ」
五日後。カイエンとメレディスは護衛の騎士を引き連れて、キースリング領を出発した。
四日の旅程で、メレディスの側にはレオナとオスカーが付いている。
妊娠中のメレディスの体を心配して、カイエンはダリエ医師も同行させた。
キースリングの屈強な騎士に手を出す者はなく、無事に王都にたどり着いた。
王都にはカイエンが持つ広い屋敷があり、滞在できるように事前に整えられていた。
「おかえりなさいませ」
王都の執事たちが、列を成して歓迎してくれる。
メレディスは初めて来るが、カロッサ公爵邸にも引けを取らない重厚で歴史がある屋敷だった。使用人も洗練されている。
幼い頃は王族でありながら後ろ盾がなく辛い思いをしたカイエンが、辺境伯になりこんなに立派な屋敷を持つとは、どれだけの努力をしたのだろう。
メレディスは傍らの夫に尊敬の眼差しを向けた。
メレディスの前では優しく温和な彼に、実は冷酷な面があることをメレディスはいつの頃からか気づいていた。
それでも彼に対する思いはなに一つ変わらなかった。
時に厳しく、そして優しく家族と領民を守る夫への愛情がますます深まるばかりだ。
「短い滞在になるが、よろしくたのむ」
カイエンが、使用人たちに声をかけた。
彼が短いと言ったとおり、三日後に国王陛下との謁見を行い、その翌日にキースリング領都に戻ることになっている。
夫婦の寝室に入ると、カイエンはメレディスを抱き上げた。
「長旅で疲れただろ? 今夜はゆっくり休もう」
「ええ」
カイエンが優しい手つきでベッドに降ろす。メレディスは彼を見上げて微笑んだ。
「カイも横になって」
「ああ」
カイエンはメレディスの誘いのままベッドに上がった。
体を寄せ合うこの時間がメレディスは大好きだ。他愛ない話をするだけで幸せを感じる。
「キースリングの皆は元気にしているかしら。お城で問題が起きてないといいけど」
「城はベルトや騎士達が守っているから丈夫だ」
「ええ、みんなを信用しているわ。でも少し離れただけでも懐かしくなって帰りたくなるの。私、すっかりキースリングの人間になったみたいだわ」
「俺もだ。王都に来たばかりなのに早く帰りたい」
「国王陛下に叱られるわ」
額を寄せ合いくすくすと笑い合う。
カイエンはメレディスの背中に手を伸ばして抱き寄せた。
「明日、中央の商店街に行ってみないか? 皆になにか買って帰ろう」
「それはいいわね! カイエンの衣装も見たいわ」
「メレディスが行きたいところは全て回ろうか」
「うん、それから……」
たくさん話し合いたいことがあるのに、旅の疲れのせいか瞬く間に睡魔が襲ってきた。メレディスは重い瞼を開けることだできず、深い眠りに落ちたのだった。
厚い雲の狭間から光が注ぐ中、メレディスとカイエンの婚礼の儀が執り行われた。
急に決まった結婚のため、招待客はキースリング領都内の貴族と高位騎士のみだった。
それでも、メレディスは幸せだった。
カイエンと臣下たちが心を尽くして用意してくれた式は素晴らしく、優しい祝福に溢れていたから。
神の前でメレディスと一生添い遂げると力強く誓ったカイエンは、言葉の通りメレディスを目に入れても居たくないほど大切にした。
「国王陛下からの召喚状が届いた」
一日の執務を終えて夫婦の寝室に戻ったカイエンが、浮かない顔で告げた。
「召喚状? どういうことですか?」
現国王はカイエンの実の兄だ。年齢がひと回り以上離れているうえに母親が違うことから、幼い頃はほとんど関わる機会がなかった。
今は親しい兄弟というより、主君と臣下といった関係だそうだ。
「長く王都に立ち寄っていなかったから、そろそろ顔を出せということだろう。メレディスも同行するようにとの命令だ」
「今までも、王都に呼ばれることがあったのですか?」
「ああ。でも正式な召喚状がくるのは初めてだ。今回は辺境伯領を出られないという言い訳は通用しそうにないな」
「分かりました。陛下に結婚のご挨拶をしなくてはいけませんね。遅かったくらいだわ。今は安定期なので移動しても問題ないでしょう。準備を進めますね」
カイエンとメレディスが結婚するとき、使者を立てて国王に許しを得ている。とはいえやはり直接挨拶に行くのが筋だろう。
とはいえ、あまり気が進まない。
メレディスは小さなため息を吐いた。
王都について考えると、忘れかけていた記憶が蘇る。
メレディスを排斥しようとする人々の冷たい視線。別れたときの妹の悪意に満ちた顔。
(なるべく王都には近寄りたくなかったけど、国王陛下のご命令なら従うしかないわ)
メレディスの不安を察したのか、カイエンが慰めるように肩を抱いた。
「何も起きないように十分用意をする。俺が守るから心配するな」
「ええ」
五日後。カイエンとメレディスは護衛の騎士を引き連れて、キースリング領を出発した。
四日の旅程で、メレディスの側にはレオナとオスカーが付いている。
妊娠中のメレディスの体を心配して、カイエンはダリエ医師も同行させた。
キースリングの屈強な騎士に手を出す者はなく、無事に王都にたどり着いた。
王都にはカイエンが持つ広い屋敷があり、滞在できるように事前に整えられていた。
「おかえりなさいませ」
王都の執事たちが、列を成して歓迎してくれる。
メレディスは初めて来るが、カロッサ公爵邸にも引けを取らない重厚で歴史がある屋敷だった。使用人も洗練されている。
幼い頃は王族でありながら後ろ盾がなく辛い思いをしたカイエンが、辺境伯になりこんなに立派な屋敷を持つとは、どれだけの努力をしたのだろう。
メレディスは傍らの夫に尊敬の眼差しを向けた。
メレディスの前では優しく温和な彼に、実は冷酷な面があることをメレディスはいつの頃からか気づいていた。
それでも彼に対する思いはなに一つ変わらなかった。
時に厳しく、そして優しく家族と領民を守る夫への愛情がますます深まるばかりだ。
「短い滞在になるが、よろしくたのむ」
カイエンが、使用人たちに声をかけた。
彼が短いと言ったとおり、三日後に国王陛下との謁見を行い、その翌日にキースリング領都に戻ることになっている。
夫婦の寝室に入ると、カイエンはメレディスを抱き上げた。
「長旅で疲れただろ? 今夜はゆっくり休もう」
「ええ」
カイエンが優しい手つきでベッドに降ろす。メレディスは彼を見上げて微笑んだ。
「カイも横になって」
「ああ」
カイエンはメレディスの誘いのままベッドに上がった。
体を寄せ合うこの時間がメレディスは大好きだ。他愛ない話をするだけで幸せを感じる。
「キースリングの皆は元気にしているかしら。お城で問題が起きてないといいけど」
「城はベルトや騎士達が守っているから丈夫だ」
「ええ、みんなを信用しているわ。でも少し離れただけでも懐かしくなって帰りたくなるの。私、すっかりキースリングの人間になったみたいだわ」
「俺もだ。王都に来たばかりなのに早く帰りたい」
「国王陛下に叱られるわ」
額を寄せ合いくすくすと笑い合う。
カイエンはメレディスの背中に手を伸ばして抱き寄せた。
「明日、中央の商店街に行ってみないか? 皆になにか買って帰ろう」
「それはいいわね! カイエンの衣装も見たいわ」
「メレディスが行きたいところは全て回ろうか」
「うん、それから……」
たくさん話し合いたいことがあるのに、旅の疲れのせいか瞬く間に睡魔が襲ってきた。メレディスは重い瞼を開けることだできず、深い眠りに落ちたのだった。