まことしやかな恋

 名前の出た性悪男とは別次元の危険性がある。変な感想だが、マスターを一言で表していいなら、人外と人間のハーフだ。

 
「ごめんね、飲ませてくれるなら黙るよ」

「アル中マスター、好きなの飲んでどうぞ」


 あと、アルコホリック。

 周囲から心配されるほどの飲兵衛だが、マスターはからりとした口調で「お酒が原動力なんだ」といつも返している。マスターに休肝日はないらしい。

 そうこうしているうちに、夜も更け、バーには人が増えてきた。

 カラン、お店の鈴が鳴る。


「──お疲れ。俺が来るの健気に待ってた?」


 悠然と甘さを孕んだ声がやってきた。


「待ってない」

「えー、つれないなぁ。俺のことお利口に待てて偉いねって褒めてあげようと思ったのに」


 当たり前のように隣に腰を下ろした男が、嫌味になるほど長い足を組む。一瞥すれば、憎たらしいくらいに整った美形がゆるりと口角を上げていた。

 夜明け前の空を溶かしたような青藍の髪から覗くのは、光の加減で変わる神秘的な瞳。切れ長な目元に反して眉は緩やかにカーブし、理知的で穏やかな微笑には大人の色気が介在していた。

 初恋泥棒と謳われるだけあるな。
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