まことしやかな恋
疑い深い人間に、言葉だけで信じてというのは酷な気がして。それなら不安の種を目に見える形で取り除くのが最適解だと思った。
でも、嗣海は逃げ出した。
終わりが怖いから、終わりが来る前に消えた。
「……あの、性格の悪いびびり」
穏便に済ませたかったのに。
こうなったら、もう何がなんでも、運命を否定してやる。
最初から計画の内側にいたと知り、鞍馬 大和は不服そうに眉間に皺を寄せていた。まだ青い彼を見据えて、私は口を開く。
躊躇いはなかった。
「──鞍馬 大和くん、君を脅します」
「は?」
「住所、家族構成、趣味、特技、好きなもの、嫌いなもの、君の弱点になりそうなものを片っ端から調べました。喧嘩好きで荒れてる君は停学も退学も意味なさそうなので困っていたんですが、ひとつ見つけましたよ。再婚で、義理の弟ができたそうですね。親とは不仲でも、自分を慕う弟は可愛いですか? まだ小学五年生の可愛い弟が、自分のせいでいじめのターゲットになったら心は痛みますか?」
「……は、テメェ……」
「良かった。使えそうですね。子どもの君を追い詰めるくらい簡単です。最低だと罵ってくれて構いませんよ。これが性格の悪い大人のやり方なので」
「……ッ、……」
「喧嘩三昧で評判の悪い君は信用がない。対して、私は養護教諭として真面目に働いてる。どうなるか結果はみえてますよね?」
足を組み、見上げる角度で薄く笑う。
物騒な殺気が飛んできた。しかし、なにもできないと知っている。ゆるりと唇で弧を描いた。